ク イ ン ト ・ オ ー ラ ル ・ イ ン フ ォ メ ー シ ョ ン 27.5%, p<0.05N=610.4gN=1091.5gp<0.0111.5%IgA 腎症群健常群6QUINT ORAL INFORMATIONタンパク尿 う蝕と IgA 腎症は関連しているかもしれないと考えていた三﨑氏だが、そのたしかな答えは得られないままだった。ある時、なにげなく新聞を読んでいると 1 つの記事「虫歯菌感染で大腸炎リスク 4 倍 阪大など解明」(2012 年)に目が留まった。いつもなら特に気にせず読み飛ばすのだが、同じように潰瘍性大腸炎の患者さんで時々 IgA 腎症を発症する患者さんを診ていたこともあり、その記事を切り抜いて保存した。 歯科分野でおもしろい研究者がいる――。三﨑氏は、自身の中で思い描いていた仮説を実証すべく研究計画書を作成することにした。しかし研究計画書は作成したものの、歯科の研究者に知り合いがいない。現在でも共同研究を続ける大阪大学歯学部教授の仲野和彦氏との出会いについて当時を振り返る。 「2013 年夏、仲野和彦先生が浜松で開催される学会で講演されることを知った私は、当時の上司に許可を得て、作成した研究計画書を片手にアポなしで共同研究をお願いすべく、先生の講演後に話を聞いていただこうという強行作戦に出ました。歯科医師でなく医師の私の勢いに仲野先生はびっくりされていたと思います(笑)が、『では一度、研究室に見学に来ますか?』と言っていただき、翌週には見学に行かせていただきました」 その後、三﨑氏は健常者と IgA 腎症患者の唾液サンプルを30 人ほど集め、仲野氏の研究室に送ることになる。その中から Cnm 陽性ミュータンス菌の陽性率を調べてもらうと、思いもよらない返事が仲野氏から戻ってきた。 「仲野先生から『これはいけまっせ。検体数を増やして論文にしましょう』と言っていただき、共同研究がスタートし、2015 年にようやく論文にすることができました」 共同研究をスタートした三﨑氏らの研究では、唾液を分析すると IgA 腎症患者では口腔内の Cnm 陽性ミュータンス菌の陽性率が高く、IgA 腎症患者のう蝕は健常者より重篤でタンパク尿も多いことが明らかになった。Cnm 陽性ミュータンス菌は、Cnm 陰性ミュータンス菌と比べ細胞外基質などへの接着能が高く、これがさまざまな全身疾患の増悪因子になっていると考えられている(図 5)。 また、Cnm 陽性ミュータンス菌は扁桃を介して IgA 腎症を増悪させることもわかってきた。さらに、Cnm 陽性ミュータンス菌は IgA 腎症患者の糖鎖異常 IgA 沈着と関連があることもわかった。三﨑氏は続ける。 「これらの研究データはあくまでも現象論でしかないので、Cnm 陽性ミュータンス菌が IgA 腎症様の腎炎を誘発させることを証明する必要が出てきました。そこで、IgA 腎症患者の唾液から抽出した菌をラットに静脈投与したモデルと、その菌をラットの歯に定着させたう蝕モデルをそれぞれ作製し、IgA 腎症様腎炎を引き起こすかを調べたところ、両モデルで Cnm 陽性ミュータンス菌が IgA 腎症様の腎炎を引き起こすことが証明できました」 その後、三﨑氏は口腔細菌と IgA 腎症の関連する論文を次々に発表するなか、2024 年 9 月には仲野氏らとともに、ミュータンス菌の表面に存在するタンパク質の 1 つであるコラーゲン結合タンパクが、IgA 腎症発症に関連している可能性を示す論文 2 を発表し、英国科学誌「Communications Biology」に掲載された(図 6)。歯科領域からのアプローチによって口腔状態を良好に保つことで腎臓の状態が改善する可能性が示唆されたのである。cnm gene - cnm gene + cnm gene - cnm gene +Misaki et al, Scientific reports, 6: 36455, 2016図 5 IgA 腎症患者では口腔内の Cnm 陽性ミュータンス菌の陽性率が高く、IgA 腎症患者のう蝕は健常者より重篤でタンパク尿も多いことが明らかになった。図 6 Cnm タンパクをラットの頸静脈より血液中に投与したところ、Cnm タンパクの投与のみで IgA 腎症様腎炎が発症した(参考文献 2 より引用・改変)。医科歯科連携で共同研究がスタート大阪大学歯学部仲野教授との出会い
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