歯科衛生士 2025年4月号
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今どきIllustration:北野 有柘植紳平Shinpei TSUGE日本学校歯科医会会長つげ歯科医院[岐阜県]歯科医師・歯学博士 最初に少し私の経験を。初めての学校健診で子どもたちの口の中を見て愕然とさせられました。当時はむし歯の大洪水時代。夏休みに「子どもの治療日」を作り、治療が終了したのは冬休みの直前でした。ところが、翌年の春の学校健診で、またむし歯が増えていたのです。そこで、保育園、小中学校に年2回健診をするようにお願いしました。ところが、保育園の園長には「そんな先生の営業のお手伝いはできません!」と断られてしまいます。これはショックでした。「なぜ、そんなことを言われるのか……?」。こんな思いを抱えたまま3年が過ぎる頃、中学生の一人平均DMF歯数が10歯にもなってしまいました。どうしようかと悩んでいた時に日本学校歯科医会のCOを知ります。COとは「初期う蝕の兆候はあるが、う窩は認められず、保健指導を行い生活習慣に注意しながら経過観察をする歯」と定義されています。そこで診療方針を治療から予防にシフトするのですが、予防には保健指導が重要だと本当にわかるのはさらに10年以上経ってからでした。 さて、もう一つショッキングな出来事がありました。健診の時、高校2年生の男子生徒が重度の疾病だったので、手鏡を渡して状況を説明しようとしたところ、「いや、自分は別に気にならないからいいです!」と拒否して行ってしまったのです。なぜ彼は説明を聞かずに帰ってしまったのか、心に引っかかって悩み続けていました。 しばらくして、あるきっかけで「そうか! 価値観か! あの生徒には健康な歯や歯肉の価値がわからなかったんだ!」と気づき、同時に保育園の園長が健診を拒否した理由もわかりました。当時の園長にとって保育園を運営するうえで子どもの歯・口の健康は優先順位の低い、価値観の低いことだったのです。こうした経験を経て、私のなかで保健指導と、それを果たす歯科衛生士の役割が次第に重要性を増してきました。89April 2025 vol.49TOPIC“知らないこと”に、心は動かないアップデートできてる?学校歯科保健指導

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