JAO[Journal of Aligner Orthodontics]日本版 2025年No.1
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[日本大学松戸歯学部歯科矯正学講座]日本版オリジナルページ [連載] 矯正歯科治療を考えるコラム矯正歯科治療とは何を目指すものなのか、何ができるものなのか? 歯科矯正学に関わるエキスパートから英知を得るコラムです。 近代矯正歯科の父と称されるEdward H. Angleは、自著において「The best balance, the best harmony, the best proportion of the mouth in its relation to the other features of the face」と述べています。これは、私たち矯正歯科医師は歯列や咬合の改善だけにとどまらず、それらを顔貌や口腔機能と調和させるべきであることを示唆していると解釈できます。 現在、矯正歯科治療における治療方法は多岐にわたり、本誌がおもに取り上げているアライナー型矯正装置もその選択肢となっています。治療計画を立案する際、患者の希望を尊重することはいうまでもありませんが、単に歯を排列するだけでは解決しない課題があることをあらためて考える必要があるのではないでしょうか。 矯正歯科治療を学ぶうえで、解剖学的特徴を理解することはきわめて重要です。この知識は、治療を開始する患者のどの部位がどのように形態的異常を起こしているかを数値化し、客観的に評価する作業において役立ちます。近年、デジタル技術の急速な進歩によりほぼすべての形態計測が三次元化され、診断方法や基準値の再検討が進められています。しかしながら矯正歯科治療の大きな目的には、不正咬合の発生(もしくは悪化)の事前予防や、治療後の長期的な安定が含まれます。これを達成するためには、形態的特徴の評価に加え、患者個々の口腔機能を正確に理解することが必要不可欠です。 たとえば、嚥下時舌突出癖をともなう上下顎前突の患者に小臼歯抜歯治療を行った場合、口腔容積の減少が後戻りの原因となる場合があります。同様に、口唇閉鎖不全の患者においても、機能(習癖)の改善を行わないままでは、長期的な安定を得るのは困難です。これらの例では習癖の除去が鍵となるため、口腔筋機能療法などを併用することで治療効果をより効果的に得ることが可能となります。 また、バイオネーターなどに代表される機能的矯正装置は、機能を考慮した装置として知られていますが、多くの矯正歯科医は形態的特徴に基づいて診断し使用しているのではないでしょうか。その理由のひとつとして、機能的特徴は個体差が大きく、定量化が非常に困難であることです。仮に定量化が可能であっても、達成すべき目標値や基準値が十分に確立されていないことも課題として挙げられます。形態と機能が調和する意味Journal of Aligner Orthodontics 日本版 | 2025 vol.5 issue 1第1回根岸慎一49矯正歯科治療が担う機能の改善とは

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