相対的な挺出(前歯の舌側傾斜移動)。前歯に空隙があって唇側傾斜している症例では、前歯を舌側傾斜することにより相対的な挺出が可能になり、オーバーバイトが増加する。前歯を舌側傾斜させるための空隙がない場合は、IPRによって追加の空隙をつくる必要がある。この移動は前歯部開咬治療にとってはプラスの動きになるが、過蓋咬合で前歯の舌側傾斜が必要な場合には注意する。抜歯治療や、Ⅱ級不正咬合の治療で前歯部を後方移動するときに起こるボーイングエフェクトによって前歯が舌側傾斜し、被蓋が深くなるのもこの原理である。 絶対的挺出(歯軸の傾斜をともなわない垂直的移動)。前歯がもともと舌側傾斜しているような場合には、舌側傾斜による相対的挺出ができないため、オーバーバイトを増やすために絶対的挺出を行う。研究によると、開咬治療時の上顎および下顎切歯の平均絶対挺出量は、片顎あたり1mm未満である4。スマイルラインによっては、開咬を改善するために上顎/下顎あるいは両方の前歯を挺出する場合もある。上下顎前歯のそれぞれの挺出量は、顔貌写真からスマイルラインや歯肉露出量を評価し、決定する(InvisalignシステムではIn-face機能も活用できる)。臨床的な歯の挺出量は絶対的挺出量と相対的挺出量を足した数値になり、Invisalignの歯牙移動表では「相対的挺出/圧下量」で表される。122ションの組み合わせによって起こるという報告と4,5、前歯部のみの挺出で起こるという報告とがある6。また、アライナー矯正治療における臼歯部圧下の加強固定としてTADの併用も報告されているが7、アライナーは抜歯やTADなどを使用せず固定式装置と同様の治療結果を得られることが示されている8,9。またアライナー矯正治療によるオーバーバイトの平均変化は2.8~3.4mmであったと報告されている2,4,8。開咬治療のバイオメカニクス ❶ 唇側傾斜した前歯を舌側傾斜させることによる相対的挺出開咬治療のバイオメカニクス ❷ 前歯の絶対的な挺出 今回は、適切な診断に基づいた開咬のアライナー矯正治療の計画立案と咬合閉鎖にかかわる効果的な治療法について解説する。 開咬の治療に有効なバイオメカニクスは以下のとおりである。Journal of Aligner Orthodontics 日本版 | 2025 vol.5 issue 2開咬治療に有効なバイオメカニクス
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