日本版オリジナルページ 論考 & 症例報告 われわれ一般歯科医は日々の臨床において、わずか1 歯の歯冠修復処置から広範囲までに及ぶ補綴・修復治療の最終局面で、咬合を考慮に入れない治療はないといっても過言ではない。特に、全顎における咬合再構成治療(フルマウスリコントラクション)の最終局面において、すべての歯科医師は文字どおり「上下歯列の咬み合う状態」としての咬合を付与することに全神経を集中させるだろう。 しかし、より包括的なシステムという視点から眺めれば、顎顔面口腔領域はひとつのまとまった単位(顎口腔系)であり、咬頭嵌合に代表される部分的局面の評価だけでは「咬合」の全体像をとらえたことにはならないといえる(図 1)1 。そもそも「顎口腔系」という用ム)」を意味するが、その仕組みを構成する複数の要素は、それぞれが独立しているのではなく互いが有機的に関連し合っている。すべての要素が等しく安定しは じ め に荒谷昌利[参考文献 1 より引用]荒谷昌利図 1 顎関節を考慮せずに上下歯列の咬合関係を診査・分類することは、顆頭を切り取った下顎骨上で咬合関係を診査するようなものである。 キーワード 咬合再構成治療、顎口腔系、顆頭位指示表(CPI)、見せかけのⅢ級(pseudo Class Ⅲ)、顎関節症Ⅱ型、整形外科的原則Journal of Aligner Orthodontics 日本版 | 2025 vol.5 issue 5ていなければ系全体の安定は得られないという事実は、すべてのシステムに共通する原理原則であろう。 そして顎口腔系の主たる機能は紛れもなく咀嚼であり、それを司る根源的要素(primary element)は顎関節であることに異論はないだろう。機能時に生じるエネルギーは次なる要素(secondary element)である咀嚼筋群を経由し、上下歯列が嵌合する状態にある咬合面へと到達する。つまり「咬合」とは、顎口腔全体の仕組みを構成する「最終的要素(final element)」であり、その仕組み全体を表しているわけではないのである。 筆者は全顎補綴治療のような咬合再構成治療におい語 の「系」と は ひ と つ の ま と ま っ た「仕 組 み(シ ス テ63荒谷昌利 ARAYA Masatoshi, DDS.荒谷デンタルクリニック 〒344-0061 埼玉県春日部市粕壁1-9-46 連絡先 E-Mail: masaobi@jcom.home.ne.jp矯正歯科治療における 顎位および咬合診査の重要性(前編)なぜアライナー矯正治療にも不可欠なのか
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