JAO[Journal of Aligner Orthodontics]日本版 2025年No.6
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99上下顎前歯の口蓋側傾斜の改善 Spee湾曲の深さと上顎前歯部の過萌出の双方に関与している要因として、上下顎前歯部の口蓋側傾斜が挙げられる。前歯部が口蓋側へ傾斜することで、歯軸方向に対して相対的な挺出が生じ、これが過蓋咬合の一因となる。したがって、この口蓋側傾斜を改善するために歯冠を唇側方向へ移動させることで、相対的な圧下を行うことができる(図5)。このアプローチにより、Spee湾曲の過度な深さや上顎前歯の過萌出を効率的かつ効果的に改善することが可能となる。 さらに、圧下の予測実現性を検討する際には、相対的圧下と絶対的圧下の区別を明確にする必要がある(図5、次ページ図6)。絶対的圧下に関しては、治療計画用ソフトウェア上で計画された2.32mmの圧下量に対し実際の圧下量は0.22mmにとどまり、その実現 これらを背景に、筆者のⅡ級2類不正咬合に対する基本的な治療戦略では、以下の2つを行う。1 非抜歯にて理想的な歯列に近づける ◦上下顎前歯部の口蓋側傾斜の改善 ◦下顎第二大臼歯の圧下2 顎位の変化を確認し抜歯/非抜歯を再診断する1 非抜歯にて理想的な歯列に近づける Ⅱ級2類不正咬合に対してアライナー矯正治療を行う際には、過蓋咬合を単なる咬合異常としてではなく、歯性や骨格性要因など複数の因子が複雑に関与する不調和の現れとしてとらえることが重要である。したがって治療計画立案時には、Spee湾曲、歯の過萌出、骨格的要因など患者ごとの主要因子を明確に把握し、それぞれの影響の大きさを評価したうえで個別化されたメカニクスを考慮することが、効率的かつ効果的な治療および治療結果につながる(図4)。 過蓋咬合の発現には歯性および骨格性の多様な因子が関与するが、歯性の因子ではSpee湾曲の深さと上顎前歯部の過萌出が臨床的に最も影響を及ぼすとされる6。これらの歯性の因子を効率的かつ効果的に改善するためには、非抜歯治療により上下顎前歯部の過度な口蓋側傾斜を是正するとともに、下顎第二大臼歯の圧下を図るアプローチが有用と考える。図4 本症例の歯性的要因。Spee湾曲の深さと上顎前歯の過萌出により過蓋咬合を呈している。図5 絶対的圧下と相対的圧下。絶対的圧下は歯を現在の位置から垂直的に圧下させることで、難度の高い動きである。相対的圧下は歯根の根尖側1/3を中心に唇側方向へ傾斜移動し圧下させることで、絶対的圧下より実現性が高い。相対的圧下(前方に傾斜移動)絶対的圧下圧下量は変わらない歯根の根尖側1/3の位置に回転中心OPENBITE / DEEPBITE それぞれの視点から学ぶ 治る・治すメソッドとストラテジーJournal of Aligner Orthodontics 日本版日本版 | 2025 vol.5 issue 6

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