矯正治療の長期経過と保定管理
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3-1 位置異常の歯を好ましい位置に移動した後は,その歯の新しい位置での支持と維持に関係するすべての組織がその新しい条件に応じるように,構造においても,機構においても,完全に変わってしまうまで,これらの歯を機械的に維持しなければならない. われわれは再発や失敗の原因となる特定の要因について,ほとんど無知である. 保定は歯科矯正学において別個の問題ではなく,われわれが治療中に行っていることの継続である. それは,新しい技術を要する特定の治療段階ではない.このステージでは,治療によってかけられた牽引力や圧迫力から緩められた歯を保定装置内にとどめることである.図 1  Angle EHとHellman Hの保定に対する見解 *参考文献 2 , 4 より引用・改変26“矯正治療後(保定時)に起こる問題”へと対応するために必要な視点とは?をできるだけ広く見渡す視点も欠かせない.これら 2 つの視点をもとに,本書ではこれまで心に残ってきたさまざまな症例について,あらためて検討を試みていきたい. 矯正治療後,短期的な経過では安定していても,長期的な経過のなかでrelapse(後戻り,再発)や新たな不正が生じることは,矯正医にとって非常に悩ましい問題である.歴代の権威者たちもまた,この問題に深く苦慮していたことがうかがえる.以下に,彼らの言葉を紹介したい.「保定が含む問題はたいへん大きいので,もっとも有能な矯正医の最高の技術を試される.そして,それはしばしば治療で直面する問題より難しい(Angle EH)」1「保定は矯正のなかでもっとも難しい問題であり,事実,問題はそれ以外にない(Oppennheim A)」2 さらに,過去の歯科矯正界の先達たちが保定についてどのように捉えていたのか,その著書や見解についても紹介しておきたい(図 1 ~ 4)1 ~ 8 .Dr. Hellman H 筆者の56年間にわたる矯正臨床の後半生を通じて,つねに問題意識を抱き続けていたのは,矯正治療後における咬合の推移とその変化であった.とりわけ矯正治療後の咬合の安定性については,矯正歯科の先進国である米国においても依然として解決が難しい課題であり,多くの著名な矯正医がさまざまな見解を示してきた. これは単に矯正治療後の経過にとどまらず,矯正治療そのものの本質に関わる問題を内包しており,取り組むことは決して容易ではない.しかしながら,多くの患者と長年にわたってかかわってきた臨床家として,この課題に正面から向き合うことは避けて通れない責務であると考えている. この課題に取り組むにあたっては,治療結果を短期的な評価にとどめるのではなく,長期的な視点から咬合の変化を捉える必要がある.また,歯列や咬合といった表面的な変化だけでなく,その背後にある多様な関連要素Dr. Angle EH先達たちによる保定に対する見解矯正治療の長期経過と保定管理 矯正治療における保定の問題に関する歴史

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