となっている3。 障がい者は、健常者と比較し認知や身体機能の低下によって口腔内環境を良好に維持することが難しく、う蝕や歯周病などの歯科疾患のリスクが高い4、5。また障がいに起因する背景から歯の先天性欠如、歯の形態異常や歯列不正および咬合異常などをともなうケースも多く、歯科治療を行ううえで注意を要する。 そして、障がい者と全身とのかかわりも大きく、障がい者が糖尿病などの全身疾患に罹患すると、その後のQOLが大きく下がる可能性がある。そのため歯周病の予防および治療を行うことで全身のさまざまな病気のリスクを下げ、全身の健康に先駆けて口腔の健康を整えることは健常者以上に重要であるといえる。さらに、咀嚼と脳活性や身体能力の向上とは深い関連があることが証明されており6、インプラント治療を含めた欠損補綴治療によって咀嚼能力を回復することは、障がい者の生活活動の活性化、社会参加、自立の観点からも極めて重要である。 当院には知的障がい、身体障がい、精神障がいなどさまざまな障がいのある患者が来院されており、近年ではインプラ 歯科治療において、障がいのある患者によっては一人での通院が困難なことや、治療への大きな不安・恐怖がある。なかでも知的障がい者においては、意思疎通の難しさなどが課題として挙げられる。そのような患者の治療に際して、歯科医師は障がいに対する理解を深め、それぞれの患者背景を鑑みて治療計画を立てる必要があるといえる。本企画では、さまざまな障がいのある患者の臨床経験をもつ松井先生に、身体および知的障がいのある患者の症例から、実際のインプラント臨床に役立つ情報を示していただく。(編集部)0969 ─Vol.31, No.6, 202485はじめに 障がい者は障害者基本法によると「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」と定義されている1。「障害」の表記については、「障害」の「害」の字は「害虫」「公害」など負のイメージが強く、「障害」をひらがな表記で「障がい」とすることによって、否定的なイメージを和らげようとする動きが行政を中心に広がっている2。本稿においては、前後の文脈から人や人の状態を表す場合にはひらがな表記(障がい)とし、法令や条例等に基づく制度や専門用語として漢字が適当な場合には漢字表記(障害)としている。 日本における障がい者の総数は1164.6万人(身体障がい者423万人、知的障がい者126.8万人、精神障がい者614.8万人)で、総人口の約9.3%に相当し、その数は年々増加傾向にある3。加えて65歳以上の障がい者数も増加しており、それにともない家族や介助者も高齢化していることが社会的な問題特別企画松井正格Masanori Matsui京都府勤務:牧草歯科医院 障がい者へのインプラント治療における注意点―手術時のポイントや信頼関係の構築に着目して―
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