はじめに症例1:他の病気で通院が途絶えて症状が進行したケース症例の概要Quintessence DENTAL Implantology─ 008484[キーワード]#重度歯周炎#天然歯の保存#メインテナンス 天然歯が残存する成人患者に対してインプラント治療を行う場合、歯周病のコントロールなくして治療結果の永続性は望めない。しかし、天然歯とインプラントはその構造や周囲組織などの違いから、治療後にさまざまな変化を起こす。その変化の中で、われわれは天然歯とインプラントの延命を図らなければならない。 本稿では、重度歯周炎患者にインプラント治療を行った長期経過を3例供覧し、それぞれの経過の中で起こった変化に対する筆者なりの考察を加えながら、天然歯とインプラントの共存について考えてみたい。 患者は2002年7月初診時58歳の女性で、会社役員として勤める非喫煙者である。主訴は右側下顎臼歯の動揺で全顎的な治療を希望し紹介来院した。全身的既往歴としては高血圧とバセドウ病があるがコントロール下にあり、歯科治療に大きな支障はなかった。歯科的既往歴は、40代後半に一度大掛かりな歯科治療を受けていたが、その後、歯肉の腫脹と出血を自覚し、症状が出たときは近医で処置を受けていた。最近になって、右側下顎臼歯の動揺と痛みを自覚するようになったとのことである。 初診時資料を図1に示す。口腔内は上下顎前歯部の角化歯肉幅が豊富で、臼歯部は2〜3mmあった。全体的に歯肉は浮腫性および易出血性であった。また、過蓋咬合気味であり、ブラキシズム、臼歯の欠損、不良補綴装置などによって咬合高径が低下しており、それにともない上顎小臼歯機能咬頭の摩耗がみられた。さらに、多くの臼歯部補綴装置のマージンが露出し、二次う蝕になっていた。₆₇は欠損していた。歯周ポケットは前歯部で3〜4mm、臼歯部はほとんどが4mm以上、部分的に7mmを超える歯もあり、BOPは全顎的に(+)であった。水平性の骨吸収に加えて、部分的に骨縁下欠損を認めた。とくに₄の骨縁下欠損は根尖部まで及んでいた。臼歯部の補綴装置は連結されていたものの動揺度は2度以上あった。 以上より、広汎型重度慢性歯周炎および二次性咬合性外傷と診断した。口腔内の状態は患者が自覚していた以上に重度であり、治療には長い期間、高い費用、身体的な侵襲がともなうことを患者に説明した。患者は、この年齢で一度口腔内北海道大学歯学部卒業後、九州大学歯学部病院第2口腔外科勤務を経て、福岡県大野城市で開業。日本口腔インプラント学会会員、日本歯周病学会専門医・指導医。歯学博士。安東俊夫 Toshio Ando福岡県開業:安東歯科医院長期インプラント症例を再評価する─天然歯とインプラントの共存を目指して─重度歯周炎患者に対するインプラント治療後の長期経過
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