近年、国民の健康意識が大幅に向上し、インプラント修復治療に対する意識・評価が高くなり、単に機能回復を求めるだけでなく、顎口腔の高度な審美性も要求するようになっている。審美修復治療においては、口腔内のみを観察するのではなく、患者のスマイルを含む顔貌から評価することが重要である。その顔貌全体をわれわれ歯科医師が客観的に分析し、患者の主観を併せて包括的治療計画を立案していくことが必須となる。 現在、適切な軟組織のマネジメント、インプラントの形状、インプラント埋入位置、アバットメントシステムの進歩による補綴デザインが確立し、天然歯と遜色のないインプラント補綴が可能となり審美性・機能性を獲得することができる。その一方でトラブル(併発症)も多く発生し、特に審美領域へのインプラント治療においては、医療介入が原因である医原性審美障害が多発している1。インプラントの併発症は多くのリスクファクターから生じる複合的な疾患であり、患者固有の要因(骨格・歯列・咬合力、口腔衛生状況、歯周炎の既往、喫煙、全身疾患、硬・軟組織の喪失状態など)だけではなく、医原性の要因として、外科手技、インプラントポジション、インプラントデザイン、補綴デザインなどさまざまな因子が関与している。 また、インプラント治療にかかわる問題としてCraniofa-cial growth(顎顔面の継続的成長)2が新たに言及されている。インプラントは骨と直接に接しているため、歯根膜を有する天然歯が顎骨の成長にともない移動するのとは異なり、移動しない。そのため、成長途中の歯槽骨へのインプラント埋入は将来的にトラブルを起こす可能性がある。インプラント埋入後に起こりうる問題としては、咬合の変化、オープンコンタクト、前歯部の審美的変化などが挙げられる。骨のリモデリングによるCraniofacial growthは生涯続くため、インプラント埋入にあたってはメリットとデメリット、経年的変化への対応策を考慮することが長期的な成功の鍵となる。 本稿では、審美領域におけるインプラント修復治療に焦点を絞り、術中・術後の機械的・生物学的併発症を引き起こさないためには何が必要かを考察し、長期的な機能的・審美的安定を得るための戦略的アプローチについて、検討していきたい。はじめに[キーワード]#審美領域に対するインプラント治療#併発症#CraniofacialgrowthQuintessence DENTAL Implantology─ 0422621999年日本大学松戸歯学部卒業。2004年開業。日本口腔インプラント学会、日本臨床歯科学会東京支部林 丈裕 Takehiro Hayashi東京都開業:吉樹デンタルクリニック長期インプラント症例を再評価する上顎中切歯単独欠損部インプラント修復の長期安定性について考える
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