第10回下顎前歯部におけるインプラント治療の基本Quintessence DENTAL Implantology ─ 0624白鳥清人 Kiyoto Shiratori静岡県開業:医療法人社団 白鳥歯科動画で学ぶ インプラント外科 基本の「き」下顎前歯部の解剖学的考察治療計画の基本的な考え方Basic狭いうえに皮質骨が多いため血流も乏しく、骨組織の再生は困難な場合が多いことなどから、臨床的には部位特異的な配慮が必要になる。 下顎前歯部は、上顎前歯部と同様に口元の審美性において重要な要素であるが、通常の生活で見える範囲は歯冠部のみで、歯頚部まで見えることはほとんどない。そのため、歯冠部が審美的に補綴されれば、歯冠が長かったり歯間乳頭が欠落していたり、あるいは歯肉付き補綴でも多くの患者において許容される。無理なポジションへのインプラント埋入や過度な骨増生は失敗につながるので、多少の審美性を犠牲にしても十分に骨のある部位へのインプラントの埋入が長期安定につながる。下顎前歯は口腔内でもっとも歯冠幅径が小さい6 〜 7 mm 程度で、インプラント治療においては埋入ポジションの正確性が要求される。 2 歯連続欠損では、無理に 2本のインプラントを埋入するよりはカンチレバーの設計のほうが容易である(図 2 )。 3 本以上の複数歯欠損では、骨質の良い部位にインプラントを配置し、ポンティックを利用することも一案である。筆者は、強い咬合力の影響がなければインプラント本数を減らしポンティック部分を多くしても良いと考えている(図 3 、4 )。また、抜歯前からインプラント治療を計画する場合は、抜歯即時埋入やリッジプリザベーションを検討し歯槽骨幅の温存を検討する(図 5 〜 7)。Basic図 1 さまざまな下顎前歯部のCT 断層画像。歯槽部は非常に薄く、根尖下方の下顎骨体部がさらに薄いケースもある。100 下顎前歯部のインプラント治療は、歯の欠損や咬合異常の治療において重要な役割を果たす。この下顎前歯部は審美性や咀嚼、発音などの機能性の要求が高く、骨量や解剖学的制約も多いため、インプラント治療には特有の課題と工夫が求められる。解剖学的には、下顎前歯部の歯槽骨は全体的に頬舌的な厚みがもっとも薄い部位であり、歯根の唇側壁および舌側壁の厚径は歯槽頂下方 5 mmの部位で両壁とも0.6mm前後である 1 。このため、抜歯後には早期に抜歯窩の外側壁が吸収してしまい歯槽骨幅が不足していることが多い(図 1)。 下顎前歯部のインプラント治療の成功率は、他の部位と比較しても同等の成功率が報告されており、性別、年齢、インプラントのサイズ、骨移植の有無などは成功率に影響していなかったとの報告もある 2 。しかしながら、全体的に骨幅は
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