Quintessence DENTAL Implantology 2025年No.5
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総合歯科医院のつくり方第 3 回患者を継続的に支える院内多職種連携の取り組みQuintessence DENTAL Implantology ─ 0822114安藤壮吾 Shogo Ando愛知県開業:なみき通り歯科・矯正歯科食べる機能の回復を超えて「生活を支える」インプラント補綴症例はじめにBasic たとえば、義歯が合わずに咀嚼が困難な口腔内状態の患者は、食物繊維の多い野菜や肉類、ナッツ類などの栄養価の高い食品を避ける傾向にあり、その結果、咀嚼しやすい炭水化物に偏った食事に陥る。これは、低栄養、肥満、糖尿病などの全身的な健康問題を加速させる可能性がある。したがって、欠損補綴治療の目的は、失われた歯の代替ではなく、患者が再び自分の意志で食を選択できる環境を整えることにある。もちろんインプラント補綴治療においても例外ではない。 本稿では、実際のインプラントによる欠損補綴症例を供覧し、その意義を確認したい。さらに、総合歯科治療において重要な役割を担う管理栄養士との連携を当院ではどのような体制で行っているのか紹介する。 患者は55歳の女性で、広汎型重度慢性歯周炎 Stage IV Grade Cと診断した(図 2)。重度歯周炎による多数歯欠損と咬合崩壊を呈しており、肥満と低栄養に陥っていた(BMI 30、血清アルブミン[Alb] 3.2g/dL)。食生活について聞いてみると、 1 日平均2,365kcalに及ぶ高カロリー・高糖質な食習慣であることがわかった(図 3)。咀嚼能率の低下と咬合支持の欠如が「噛みごたえのある食品を避け、満腹感を得にくく、過食を誘発する」悪循環につながっていた(図 4)。 治療計画および治療経過を図 5 、6 に示す。インプラントBasic図 1 インプラント治療をはじめとした欠損補綴治療は、患者に正しい食選択を伝える絶好のチャンス。 欠損補綴治療のゴールは、いまや単なる咀嚼機能や審美の回復にとどまらない。それは「噛む」「飲み込む」「話す」といった患者の生活に必要な口腔機能を回復・再建するための治療であることは間違いない。しかし、その果たすべき本質的な役割というのは、患者の「生きるうえでの健康のベクトル」を修正することにほかならない。特にこの超高齢社会においては、「何をどのように食べられるか」が、栄養状態や全身状態、QOL(生活の質)の維持に直結している。つまり、欠損補綴治療とは、食べる能力を再獲得するための手段であると同時に、「何を食べられるか」という選択の幅を広げるだけでなく、「何を食べなければならないか」という、その患者にとって正しい食選択に導く機会なのである(図 1)。

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