QDT 2024年11月号
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QDT Vol.49/2024 November page 1207 開業(2004年)当初からの4年間は、咬合論や機能を学びながら、得意とする外科のスキルを生かしたダイナミックなGBRに情熱を注いでいた。 その後2008年に、日本臨床歯科学会(SJCD)理事長である山﨑長郎先生を一水会にお招きし、審美の世界の素晴らしさを存分にレクチャーしていただいたところ、筆者の臨床観を変えざるを得ないほどの衝撃を受けた。これを境に筆者の治療も大きく変わることとなった。 そして、患者が機能だけではなく、視覚的にも喜べる審美のエッセンスを取り入れた機能美を目指そうと思い取り組んだ時代の症例が今回提示する症例である。●症例の概要【初診年月】2011年4月【治療終了年月】2012年6月【症例の概要】患者は32歳(初診時)、女性。以前から上顎前歯の歯並びが気になってはいたが、なかなか治療に踏み切れなかった。今回治療の決心がつき、当院受診。治療に関しての要望等を聞いてみたところ、勇気と決意をもって来院されたため、審美回復への意欲は強かったが治療中の見た目が許容できないということで、矯正歯科治療は受け入れられなかった。本人としては、「時間はか 上顎前歯部には叢生を認め、とくに₁の唇側転位により₂との歯頚ラインのギャップは著しく、全体的に今ならこうする補綴設計・治療計画 ─振り返りから学ぶこと─ 一般的に、矯正歯科治療も含めたさまざまな治療法を自由に選択できる、いわゆる「Plan Aの治療」が理想の治療であるとは思う。しかし、秋田県の片田舎にクリニックを展開する筆者のような環境下では、残念ながらPlan Aを選択する患者は決して多くはない。 それゆえに、限られた条件の中で試行錯誤し、その中で可及的に審美性や機能性を獲得して患者の満足を得ること、いわゆる「Plan Bの治療」のクオリティーをPlan Aに限りなく近づけることが、筆者のリアルなテーマであった。そしてこのテーマに本症例がベストマッチだったことが選定の理由である。かってもいいから、矯正歯科治療以外の方法で上顎前歯の歯並びをきれいに治したい」とのことだった。治療当初は、緊張や不安もあったせいか、口数も少なく笑顔を見せることもあまりなかった。しかし治療が進むにつれ、主治医である筆者や補綴装置製作を担当する吉村知久氏(歯科技工士・関錦二郎商店〔当時。現・gratDEX〕)の熱意が伝わったのか、治療が終盤に差し掛かる頃には、まるでチームのように打ち解けてくれ、笑顔も多く見せるようになってくれたことは、とてもうれしかった記憶がある。見ても歯頚ラインは揃っていない。また、₂~₂の歯列弓長が26.5mmであるのに対し、歯冠幅径の総和が31.0mmであり、4.5mmのスペース補正が必要なことが分かる。19今回の症例を選択した理由ケースプレゼンテーション ①Case1(2011年初診)1)初診時の状況および検査・診断

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