QDT 2025年4月号
2/9

acbd図1a~d 臼歯部に咬合支持のない、咬合崩壊している患者の多くは歯だけでなく歯周組織も失われており、残存歯の位置異常や歯冠形態の不良をともなう。咬合高径は低下し、咬合平面は乱れ、審美的にも機能的にも問題を抱えている。これらの患者を治療する際には歯をどの位置に並べるのか、そしてそれをどのような補綴装置で実現していくのか。また、その際に残存歯をどうするのかを決めて咬合再構成する必要がある。23QDT Vol.50/2025 April page 0429本当に患者が望むことは何か?■臼歯部に咬合支持のない、咬合崩壊していた患者治療用義歯が導く多数歯欠損患者の咬合再構成 〜審美と機能の融合を目指して〜(前編)も優れ、インプラントオーバーデンチャー(以下、込みがあるために、歯科医師も患者も判断を誤ってしまう(図2)。固定式の補綴装置は可撤式よりも機能的には優位であり2、IODは従来型の総義歯に比較すると機能面の評価において優位である3と多くの文献で示されている。しかし、だからといって「固定式>IOD>従来型の義歯」と決めつけてしまうのは軽率である。固定式よりも可撤式を好む患者は存在する(図3)。また、金銭的なコストの問題がない場合でも、IODよりも総義歯を選ぶ患者が存在することも明らかにされている(図4)。それぞれの治療にはメリット・デメリットが存在し、患者の要望に合わせて機能回復の提案を変える必要がある。 ここで考えなくてはならないのは、歯科医師がベストであると考える治療方針・治療結果がかならずしも患者の満足につながらない可能性があるということである。患者が治療を受けることで得られる結果がそれにかけるコストに見合っていると感じる時に初めて満 初診時の主訴は真の患者の要望ではないことも多く、また患者の要望はさまざまで矛盾を抱えている。ひとつの要望を満たそうとすれば、もうひとつの要望は満たされないということが起こりうる。たとえば歯列不正のある多数歯欠損患者に、「歯を残したいが歯並びもきれいにしたい。でもできるだけ早く治療をしてほしい」と言われたとする。歯の保存と治療期間を優先すると歯並びは妥協してもらわなければならないだろうし、歯並びをきれいにするために必要な歯を抜歯するのであれば、歯を残したいという要望を犠牲にしなくてはならない。あるいは、歯並びを改善するために矯正歯科治療をするのであれば、治療期間はかなり長くなってしまう可能性もある。 このように、患者の訴える要望のすべてを満たすことは難しいことが多いのではないだろうか。患者の要望に優先順位をつけて整理することが求められ、それに合う治療法を提案していかなくてはならない。事前に、妥協が必要となる部分も理解しておいてもらう必要がある。こうした中で、「固定式のほうが可撤式よりIOD)のほうが従来型の義歯よりも優れる」という思い

元のページ  ../index.html#2

このブックを見る