自然が生み出す造形は、複雑でありながら美しい。そして天然歯もまた、複雑な形態のなかに一定の法則をもちながら絶妙なバランスで成立している。 歯冠修復作業においては、失われた天然歯構造を、より審美的かつ機能的なものへと変えながら形態造形を行わなければならないが、この作業には「模倣」と「創造」という2つの異なる観点が存在している。模倣とは、実際に存在する天然歯を限りなく真似て自然な状態として再現することである。一方、創造とは、天然歯の形態的要素を取り入れながら、新たな構造体として造り変えることである。当然ながら、歯科における造形にはさまざまな機能的要素が含まれることとなる。 そもそも形態とは、造形表現においてもっとも重要な要素であり、色や質感が加わることで、そのものの本質が決定される。また形態には、個人の印象や感情を左右する力があり、とくに審美領域での形態選択や排列操作は、患者の個性表現に直結している。しかしながら、臨床においては口腔内の環境や条件によって何らかの制限がかかっていることが多く、そこに患者の要望が加わることで、しばしば天然歯の解剖学や形態学を当てはめることができないシチュエーションも生じてくる。これは、CADソフトウェアのライブラリフォームをデザイン調整なしにそのまま歯列に適応できないことと同義である。そのため、補綴修復治療では、天然歯の基礎形態学に加え、臨床形態学の要素が大いに必要となってくるのではないだろうか。 今回は、天然歯形態を再考し、多様な臨床要件を満たすために必要な新たな形態デザインコンセプトとその応用操作、そして歯列設計までを臨床例を交えながら細かく解説していきたい。前編:天然歯の形態分析と9分割形態分析法都築優治Ray Dental Labor京都府京都市山科区竹鼻竹ノ街道町18-8エリッツ山科ビル3F44QDT Vol.50/2025 April page 0450はじめにFeature article #2審美修復に必要な臨床形態学
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