QDT 2025年9月号
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力を逃がす咬合接触点の与え方とは?今回参考にした文献についてはこちら!13°の咬頭傾斜角の差で耐久性は 2 倍まとめ ▶ 天然歯とインプラントは同じで問題なしとのコンセンサスだが……?natural morphologycopy designunique design 2017年の研究によると、咬頭傾斜角が33°のメタルセラミッククラウンは、1,204Nで築盛陶材が破折したのに対し、咬頭傾斜角20°ではかなり耐久し、破折まで 2 倍以上(2,476N)の荷重が必要だったと報告しています 3 。さらに2025年の最新報告によると、咬頭傾斜角30°のクラウンは咬頭傾斜角15°のクラウンの 2 倍のたわみ量と、 7 倍もの残留ひずみを生じさせたとのことです 4 。また、10°の傾斜角の差が30%のトルク増減に繋がるとの報告もあります 5 。これらの意味するところは、咬頭が鋭角になると横方向への力が増加し、ネック部への応力集中が起きやすくなるということです。角度というものの“物言わぬ威力”に驚かされるのではないでしょうか。 「天然歯に近づける」。それは補綴装置設計の永遠の命題にして、美しい理想です。 しかし、ことインプラントにおいては、その理想が時として“敵”に変わることがあるようです。ならば単に天然歯の形態を模倣するのではなく、“その違いに応じた形態”を構築すべきであると、今回読み解いたレビューからは示唆されています。─本稿で取り上げた 3 つの設計因子─①咬合テーブル(固有咬合面)幅の狭窄(天然歯の60~70%が目安)②咬頭傾斜角は20°以下が理想③咬合接触点はなるべく中心に付与し、平坦接触+周囲自由域を付与 これらは、いずれも「天然歯の再現」ではなく「補綴装置のための設計」です。とはいえ、今回のすべての研究は模型実験や理論考察に留まり、臨床試験はほとんど見つから83第 3 回 臼歯部インプラント補綴装置の咬合面は天然歯と一緒でよいの? 歯列にとって、接触点とは力の“起点”です。その起点がズレれば、結果もまた大きくズレていきます。2021年のFEA 研究では、咬合接触点が中央窩一点集中の場合の応力値が53.6MPaであったのに対し、 軸外三点接触では118.6MPa。実に 2 倍以上もの応力が発生しました 5 。また、Mischらは、咬合面設計の鉄則として「なるべく咬合面の真ん中に当てて、そこからちょっとだけ自由に動けるように水平にしておくと良いよ。斜面接触は避けるほうが無難だよ!」としています 2 、 6 、 7 。これにより、荷重の偏位や回転力を抑え、無駄な応力を分散することができるとのこと。咬合接触点といえばABCコンタクトが有名ですが、インプラントに適応する際には慎重な判断が求められそうです。ないのが現状です。実際、Goldsteinらは「インプラント独特の咬合様式が有利っていう科学的根拠はまだまだ不足しているよね? 今のところインプラントと天然歯は同じように咬合させて良いと思うよ」と述べています 8 。確かに長期的な臨床エビデンスが欠如しているため、いくら力学を検証したところで、実際の歯科治療における「力及ばず」感は否めません。ただ逆に、力学的に有利な設計が何か不都合を及ぼしたとの報告もありません。今の私たちにできるアプローチとしては、解剖学的形態を踏襲しつつも力学的に不利にならないようにアレンジし、なるべく「力及ばず」程度にしておくのがちょうど良いのかもしれません。QDT Vol.50/2025 September page 1143

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