ザ・クインテッセンス 2024年12月号
6/9

②神経の損傷 根面被覆術を行う際に注意すべき神経は,眼窩下神経とオトガイ神経の2つである.眼窩下神経はかなり深部の切開を行わなければ基本的に損傷させることはない. オトガイ神経は下顎の治療を行う際に十分な注意が必要である.前編で解説した減張切開を行うことで,これらの神経損傷のリスクを低くすることができる.しかし,解剖学的な差異が存在するため,術前にパノラマエックス線写真やCBCT像を撮影し,オトガイ孔の位置を確認しておくことが重要である.③歯肉弁の穿孔 根面被覆術でもっとも遭遇する可能性が高いトラブルは,歯肉弁の穿孔や歯肉弁がちぎれてしまうことである.メスを歯肉弁に平行に移動させることで穿孔のリスクを低下させることが可能であるが,クローズドアプローチの場合,非明視野下での作業となるため,穿孔のリスクは高まる. 術前に歯根や骨の凹凸を十分に把握しておくことが重要である.損傷が大きい場合はできるだけ細い根面被覆術に関するトラブル対応のフローチャート術中の出血ガーゼで手術部位を約5分間圧迫する図1 根面被覆術に関するトラブル対応のフローチャート(参考文献1より引用・改変).術中のトラブルとしては,出血,神経損傷,歯肉弁の穿孔が挙げられる.青:治療のステージ.赤:トラブル.黄:合併症.緑:対処法.術中のトラブル神経損傷血流があるエリアでの小さな穿孔→縫合の必要なし歯肉弁の穿孔>2mm,または血流がない部分に穿孔がある場合は縫合が必須歯肉弁の穿孔根面上(血流がない部分)で歯肉弁が穿孔した場合,CTGを行うことを推奨するthe Quintessence. Vol.43 No.12/2024—2597831)術中のトラブル 根面被覆術は多くの工程を必要とする術式であるため,術中にトラブルが生じることもある.その際に冷静に対応するためにも,対処法を理解しておくことは非常に重要である(図1).①術中の出血 術中に過剰な出血が認められた場合,ガーゼで手術部位を約5分間圧迫することで止血できる可能性が高い.根面被覆術を行う際,コントロールできないほどの過剰な出血が起きる可能性は低い.しかし,過剰な出血が生じる可能性があるとすれば,結合組織採取時の大口蓋動脈損傷や,部分層弁を形成して骨膜減張を行う際に不必要に深く切開を入れてしまった場合である. 大口蓋動脈を損傷してしまった場合,起始部に近い部分で血管を結紮するように口蓋の歯肉ごと縫合を行うことで止血が可能となるが,それ以前に大口蓋動脈に接近しないことがもっとも重要である.その他の部位からの過剰な出血に対しては,乾燥,または止血薬に浸したガーゼで3~5分間圧迫することで解決できる.

元のページ  ../index.html#6

このブックを見る