ザ・クインテッセンス 2025年1月号
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質問者:斎田寛之ab細菌検査で悪玉が少ないのに歯周病が進行する場合があるのはなぜか? 患者は37歳,女性.重度歯周炎に罹患し,₁には10mmの歯周ポケットが存在しました.同部位からの細菌検査(リアルタイムPCR法)により,P.g.菌は検出されましたが,対総菌数比率では1.69%と低い値を示しました. 歯周病にかかわる代表的な悪玉細菌として,P.g.菌(Porphyromonas gingivalis)が知られています.P.g.菌は歯周病患者の深いポケットからよく見つかること,動物の口腔内に感染させると歯周病を引き起こすことから,歯周病の原因菌と考えられてきました. しかし最近の研究で,P.g.菌の存在割合は口腔内細菌全体の0.01%未満であること,常在菌がいない完全無菌のマウスの口腔内にP.g.菌だけを感染させても,歯周病は生じないことが報告されました2. つまり,P.g.菌はそれ自体が歯周組織を攻撃するのではなく,そのほか大多数の常在菌の量および質的なバランスを悪化させることで間接的に歯周病を引き起こす可能性が考えられ,歯周病を直接的に引き起こしているのはP.g.菌でなく常在菌であるという説が提唱されています. この考え方は“キーストーン説”と呼ばれています. Shibaら1によれば,より精度の高いRNA検査による重度歯周炎では,約15%のP.g.菌が検出されたと報告されています.悪玉菌が少ないのに歯周病が進行する場合があるのはなぜでしょうか?キーストーン(要石)とは,アーチ状の石橋を構成する頂上部の石のことを指し,数は少ないが全体にとって重要な役目を果たすものの例えに使われる用語です.P.g.菌がいなくても,他の要因によって口腔フローラの状態が悪化した患者さんでは,歯周病が発症および進行するリスクが十分に考えられるため,注意が必要です.図1a,b 患者は37歳,女性.年齢などを考慮して重度歯周炎と診断した.初診時にもっとも進行していた₁遠心の細菌検査を行った.P.g.菌は検出されたものの,対総菌数比率は低い値を示した.the Quintessence. Vol.44 No.1/2025—004949QuestionAnswer01

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