新連載連載開始にあたって“アブフラクション”との遭遇第1回 NCCLをめぐる個人史黒江敏史 2024年9月にクインテッセンス出版から『なぜ起きる? どう対応する? 非う蝕性歯頸部歯質欠損 NCCL』(以下,NCCL本)を発刊することができた.NCCLは筆者が歯科医師となって2年目から約30年間追いかけ続けてきたトピックであり,ある意味現時点での筆者の集大成といえる書籍である.1991年にアブフラクションが提唱されNCCLの病因論が大きく変化してから,アカデミアがアブフラクションに否定的になった現在までの変遷を網羅している. 筆者自身のNCCLとアブフラクションに関する考え方も,この30年で大きく変化した.その変化の科学的,臨床的根拠をまとめたのが,このNCCL本である.結果として,過去の自分自身の主張をほぼ180°覆すことになったが,その過程は簡単ではなかった.何度も文献と症例を見直し,熟考と自問自答を繰り返した結果である. 蓄積した根拠は膨大で,書籍に収載できなかったものも多かった.初学者も対象とした書籍であったため,マニアックな内容は割愛せざるを得なかった.そのため,詳しい人は「あれはどうなっている?」と感じるところがあったかもしれない.書籍に収載できなかった,より踏み込んだ内容を連載で紹介していく. 読者の目には,筆者が筋金入りのアブフラクション否定論者に映っているかもしれない.しかし,アブフラクションを否定的に考えるようになったのは,2016年頃で比較的最近のことである.アブフラクションを知ったのが1994年であるため,肯定派として過ごした時間のほうがより長い.アブフラクションを実証するために留学し,アブフラクションに肯定的な論文や雑誌の特集を書いてきた,アクティブなアブフラクションの信奉者であった. アブフラクションを知るきっかけとなったのは,the Quintessence 1994年4月号の論文(図1)1で,大学補綴科研修医2年目のことだった.それまで習っていたことと大きく異なり,咬合へ新たな意味を与える説に衝撃を受けて,のめり込んでいった.アブフラクションという言葉とはこれが初遭遇Noncarious Cervical Lesion山形県開業 黒江歯科医院連絡先:〒992‐0472 山形県南陽市宮内3577the Quintessence. Vol.44 No.1/2025—0142142くさび状のNCCL最深部に明瞭な角があり,歯肉側壁と歯冠側壁のなす角度が鋭角なものNCCLう蝕以外の原因でCEJ付近に生じた歯質欠損もっと深掘り!NCCL
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