連載第3回 エナメル質と象牙質の力学的特性からアブフラクション仮説を再考するthe Quintessence. Vol.44 No.3/2025—0532124Noncarious Cervical LesionNCCLう蝕以外の原因でCEJ付近に生じた歯質欠損NCCLの主体は象牙質の欠損細くて薄いエナメル突起は弾け飛ばずに残っているエナメル質耐摩耗性耐酸性クラック入りやすい象牙質高い(象牙質の20倍以上1)低い高い低い入りにくいエナメル質と象牙質の性質アブフラクションと疲労破壊黒江敏史山形県開業 黒江歯科医院連絡先:〒992‐0472 山形県南陽市宮内3577 NCCLが発生する歯頸部はエナメル質と象牙質がオーバーラップした部位であり,NCCLの原因を考える場合には両者の性質を考慮する必要がある. NCCLの三大原因(摩耗,酸蝕,アブフラクション)に対する挙動の違いを表1にまとめた.エナメル質と象牙質には耐摩耗性に大きな差があり,摩耗は象牙質が選択的に喪失することをよく説明する.耐酸性もエナメル質のほうが高いが,酸蝕の原因となる胃酸や酸性飲食物の大半はエナメル質と象牙質の両方を溶解できる酸性度である.◆表1 NCCLの三大要因(摩耗,酸蝕,アブフラクション)に関するエナメル質と象牙質の挙動の違い. アブフラクションは疲労破壊(コラム参照)による歯質の喪失を想定しているため,疲労破壊が起こりやすい組織で発生,進行することが予想される.疲労破壊のメカニズムを考慮すると,マイクロクラックの発生と進展のしやすさが指標となる.エナメル-象牙境(DEJ)付近に微小押し込み試験を行った研究では,マイクロクラックはエナメル質にのみ発生した(図2)2,3.さらに,エナメル質のクラックはDEJで止まった2,3.象牙質にはクラックは入らないが,より大きな痕がついた. つまり,力に対してエナメル質は変形しにくいがクラックは入りやすく,一方で象牙質は変形しやすいがクラックは入りにくい性質をもつことになる.すなわち,疲労破壊がベースのアブフラクションが起こるとすればエナメル質である.しかしながら,NCCLで欠損しているのは大部分が象牙質である.まず,この点において仮説と現実が大きく乖離している.もっと深掘り!NCCL
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