この方法の大きな利点は,侵襲が少なく,患者への身体的負担が軽減される点である.適切に実施されれば長期的な安定性が期待できる治療法であるが,抜髄根管の成功率は85%,未治療の感染根管は80%,再治療の感染根管は56%と報告されており2,すべての症例において安定した治療効果が得られるわけではない. また,歯の解剖学的形態や状態によって治療の難易度が左右される.とくに,根管形態が破壊されている場合には成功率が47%にまで低下すると報告されている3.さらに,破折ファイルや石灰化した根管の存在は治療の障害となりうる.これらの困難な条件では,感染が根管内に残存し,結果的に治癒が得られない場合がある. 外科的歯内療法は,非外科的治療が不可能,もしくは治癒しなかった際に選択される補助的なアプローチであり,感染部位への直接的な処置を可能にするものである. この治療では,歯肉を切開して感染病巣や損傷した根尖部を除去し,病変部に直接アクセスすることで感染を除去する.この方法の利点は,非外科的治療では到達できない感染部位や,根尖孔外に広がった病変に対しても対応可能な点にある.また,根管内の清掃が不十分な場合でも問題を解決できる可能the Quintessence. Vol.44 No.6/2025—1133632)外科的歯内療法1)非外科的歯内療法1.非外科的歯内療法と外科的歯内療法【非外科的歯内療法】◆特徴:感染した根管内の組織や細菌を除去し,清掃・消毒後に根管を密閉する手技◆利点:侵襲が少なく,患者の身体的負担が軽減される.適切に実施されれば,長期的な安定性が期待できる◆欠点:歯の解剖学的形態や状態により治療の難易度が左右される.破折ファイルや石灰化した根管が障害となりうる◆成功率:抜髄根管85%,未治療の感染根管80%,再治療の感染根管56%(根管形態が破壊されている場合は47%)【外科的歯内療法】◆特徴:非外科的治療が不可能または失敗した際に選択され,感染部位に直接アクセスする治療法◆利点:非外科的治療では到達できない感染部位や病変に対応可能.根管内の清掃が不十分でも問題を解決できる可能性がある◆欠点:侵襲が高く,術中や術後に痛みや腫れ,一時的な機能障害が発生するリスクがある.再発や新たな合併症の可能性もある◆成功率:従来法59%,マイクロエンドサージェリー94%表1 非外科的歯内療法と外科的歯内療法の比較外科的治療への移行が必要なのか,術者はつねに患者の利益を最優先に考え,冷静かつ的確な判断を行うことが求められる. そこで本特集では,非外科的治療をより効果的に活用し,可能な限り外科的介入を避けるための工夫や取り組みについてわかりやすく紹介する.また,非外科的な手法だけでは改善が困難で,どうしても外科的治療が必要となった場合の具体的な治療方法についても説明し,患者が納得して治療方針を選べるよう,判断の一助となることを願う.術者によって有益な指針となり,ひいては患者に最善の治療結果をもたらすことができれば幸いである. 非外科的歯内療法と外科的歯内療法はいずれも,根管系の細菌感染の除去および病変への対応を目的としたアプローチであるが,それぞれ異なる特徴や利点,欠点を有している(表1).これらの違いを正確に理解し,適切な選択を行うことが,患者の治癒と治療後の予後に大きく影響する. 非外科的歯内療法は,一般に「根管治療」として知られ,感染した根管内の組織や細菌を除去し,清掃・消毒を行った後,根管を密閉する手技である.
元のページ ../index.html#4