4 . 0 95 . 1 87 . 3 48 . 5 1オトガイ神経図 2 下顎臼歯部は下歯槽神経に根尖が接近するので,外科治療が行いにくい.参考文献 3 より引用,改変.下歯槽神経下顎臼歯部の解剖学的特徴療法科に留学した2014~2016年の時である.そして,その治療法は日本で教わっていたものと大きく異なっていた.どうしてそのような違いがあるのかも含めて,本稿ではIRを解説していきたい.1 - 1 意図的再植術の成功率,生存率とインプラントとの比較 IRを行うからにはその成功率を知りたいところであるが,この治療には成功率が存在しない.そこにあるのは生存率だけである. Torabinejadら 1 は2002~2012年に,ヒトで行われたインプラント埋入とIRの最低 2 年の生存率を算出し, 統計処理を行った. その 2 年生存率は,IRで88%,インプラントでは97%であるという.そして,IRは「何らかの事情でインプラントができない患者にとっては役割があるのかもしれない」と結論づけている. しかし,そこには成功率というものはなく,生存率しかない.一方で,Becker 2 によれば歯根端切除術(apicoectomy)もかつてその成功率は40~90%とけっして高いものではなかったのだが,マイクロスコープや超音波スケーラー,mineral trioxide aggregate(以下 MTA)をはじめとする生体親和性の高い根管充填材が用いられるようになり,その成功率は85~96.8%と高いものになったと報告している.つまり,「apicoectomyで使用する歯科医療機器,歯科材料などの先進的なテクノロジーをIRに生かせば,apicoectomyと変わらぬ成功率を叩き出せるのではないか」と仮定し,われわれ臨床家に問うているのである.ここではまず,IRは文献的には成功率が存在しないという事実をご理解いただきたい.1 - 2 意図的再植術の解剖学的制限 「な ぜapicoectomyで は な く,IRを 行 う の か」という問に客観的に答えるには,まず口腔の解剖学的特徴を理解する必要がある.Kratchman 3 によれば,「下顎第二大臼歯は舌側に傾斜しており,api-coectomyをするための骨形成時に多くの歯槽骨を削除する必要がある」としている(図 1).つまり,apicoectomyが現実的ではないということである.また,「下顎は下歯槽神経に根尖が接近するので外科治療が行いにくい」とも述べている(図 2). さらに,上顎第一,第二大臼歯口蓋根に病変があ1 .意図的再植術の基礎知識 47the Quintessence. Vol.44 No.7/2025—1343図 1 下顎第二大臼歯は舌側に傾斜しており,apicoectomyをするためには多くの歯槽骨を削除する必要がある.数字は,根尖から頬側皮質骨までの距離(mm).参考文献 3 より引用,改変.
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