歯根吸収は歯髄炎や歯髄壊死にともなって発現し,脱落後再植歯や陥入歯において頻度が高いことが知られている 5 ,6 .脱落歯においては,歯周組織は断裂や挫滅,乾燥,汚染を被っている.ここで挫滅を含めた理由は,歯が脱落に至る過程で,いったん歯が根尖方向に力を受けて陥入して歯根膜と歯槽骨が挫滅したあとに,歯が歯冠方向への力を受けて脱落する例があるからである 1 . また陥入した歯は,歯槽内で歯根膜が強く圧縮,挫滅されたのち,歯根膜が虚血状態におかれ,破砕された歯槽骨と混在する時間が比較的長いと推察さ1 )受傷歯が被る損傷と歯根吸収の発生状況1 .外力を受けた根未完成歯の損傷と歯根吸収の診査the Quintessence. Vol.44 No.7/2025—136569歯冠・歯根破折(仮性)露髄・太い象牙細管歯槽骨骨折・内出血歯周組織の圧縮・挫滅根尖部出血未石灰化の根尖歯根破折歯槽骨骨折歯根膜の断裂・出血歯髄循環障害歯冠亀裂根未完成の受傷歯と歯周組織が被る損傷 外力を受けた根未完成歯と歯周組織が被る損傷について図 1 に模式図を示した 4 .この図では,露髄をともなわない歯冠破折を例として,破折以外にも歯周組織や歯根,歯髄に何らかの損傷を被っている可能性があることを示している.歯根膜の断裂や挫滅による創面や,微細な歯冠,歯根,歯槽骨の破折からは,感染や乾燥が起きかねない.歯根吸収の原とくに疑われるのは,歯周組織の損傷,循環障害,低酸素状態,乾燥,感染である.図 1 視診で「露髄のない歯冠破折」に見える受傷歯が被っている可能性がある損傷.外力を受けた歯は,多部位を同時に損傷している危険性がある.歯周組織:①挫滅・断裂部には感染が始まる.②歯頸部歯根膜の断裂・挫滅部から感染が始まる.歯の動揺が続くと,ジグリングによって組織の治癒が遅れ,感染や微細損傷,壊死が進む.③歯槽骨で骨折が歯の変位が生じた後に生じることが多く,歯肉内出血と発赤,腫脹,疼痛をともなう.歯:歯冠や歯根の破折・亀裂(微細な不完全破折).歯髄:循環障害が生じたのち,歯冠破折や歯根破折部,歯周組織損傷部から感染が生じ,歯髄炎や歯髄壊死が生じる.このように,多部位に多様で複雑な損傷が生じ,後に感染が加わることで,時間経過とともにさまざまな異常所見が生じる.(参考文献 4 より改変引用)因(表 1)とされる要因のうち,外傷受傷歯において
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