ザ・クインテッセンス 2025年7月号
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v糖尿病炎症状態の脂肪常な脂肪肥満炎症性サイトカイン遊離脂肪酸炎症性サイトカイン遊離脂肪酸Diabetes脂肪は代謝の調整役the Quintessence. Vol.44 No.7/2025—1400肥大した脂肪細胞健康な脂肪細胞アディポカイン分泌は脂肪蓄積によって変化するすぐれものアディポカイン代表“アディポネクチン”時代をつかむトピックス糖尿病に強くなる7内分泌器官としてはたらく脂肪(後編)脂肪がもたらす健康バランス 現在,脂肪細胞からさまざまな細胞間の情報伝達物質(サイトカイン)が産生,分泌されていることが明らかになっており,総称して「アディポカイン」とよばれています. アディポカインは,インスリン抵抗性やメタボリックシンドロームを進行させるもの(悪玉)と,抑制させるはたらきのもの(善玉)に分けることができ,脂肪の内分泌器官としての面が明らかになっています 1 .そして,脂肪細胞が肥大するほど,悪玉アディポカインの産生が増加していきます(図 1 ). アディポネクチンは脂肪細胞から分泌され,エネルギーセンサーであるAMPKを活性化します.AMPKは糖の取り込みや脂肪燃焼を促進します.さらに,肝臓でインスリンの作用を高めるIRS- 2 を増やすことで, 血糖値の安定化や糖尿病を予防する 2 だけでなく,動脈硬化抑制,抗炎症,心筋肥大抑制など多彩な作用をもっていること 3 が報告されています. さらに,アディポネクチンは血糖値に応じて視床下部のニューロンに作用し,食欲を調節します.低血糖時にはニューロンを活性化して食欲 前回( 6 月号)の連載では,脂肪は単に脂肪成分が蓄積されたものではなく,あたかも“内分泌器官”のよう▼内分泌器官として機能する脂肪身体を守るアディポカインの増加アディポネクチン血圧,中性脂肪を下げ, 動脈硬化を防ぐレプチン食欲を抑制するに機能していることを紹介しました. 脂肪細胞は過剰な糖や脂質を,脂肪滴として細胞内に蓄積します.そして肥大化していくと,炎症性サイトカインや遊離脂肪酸を多量に放出し,糖尿病や動脈硬化の発症につながります. 一方で,脂肪細胞はエネルギー代謝を効率化する物質だけでなく,満腹感をコントロールするホルモンも分泌し,身体を健康に保つために重要なはたらきをしています.そして,脂肪が少ない“やせ体型”では,糖尿病リスクが高まるという事実も明らかになっています. 今回は,脂肪細胞の“代謝の調整”という役割について見ていきます.アンジオテンシノーゲン血圧を上げる⇒高血圧TNF-αインスリン抵抗性を引き起こす⇒糖尿病悪化させるアディポカインの増加PAI- 1血栓を作る⇒動脈硬化TOPICS中性脂肪を蓄積生活習慣病にかかわる物質TOPICSTOPICS水谷幸嗣東京科学大学大学院医歯学総合研究科総合診療歯科学分野・講師2006 年東京医科歯科大学大学院修了(歯学博士).ハーバード大学医学部 Joslin 糖尿病センターリサーチフェロー(2010 ~2012 年 ),東 京医 科歯科大学歯周病学分野助教,講師を経て現職.日本歯周病学会専門医・指導医.図 1 脂肪細胞は単にエネルギーとして脂肪を蓄積しているだけでなく,さまざまな細胞間の情報伝達物質(アディポカイン)を放出している.ただし,脂肪細胞の肥大の程度により放出されるアディポカインのバランスは異なり,肥大化するほど“悪玉”のアディポカインが増加していく.104TOPICS

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