はこの考えには賛同できない.その理由は,大学病院に初診来院する小児患者には,適切でない治療を施されたために顕著な炎症を起こしたり,後継永久歯がまったくちがう方向に進んでしまった症例を多く見かけるためである(図 1). しかし上記のような治療は,ほんの少し考え方を変えるだけで大きく成功率が上がる可能性も秘めている.本稿では,乳歯の最終修復として行う修復処置とその手技を紹介するとともに,近年の修復方法の進歩や,修復に関する考え方の変化を解説したい.読者の先生には,いつか一度は学んだであろうスタンダードの小児歯科診療を思い出し,新たな考え方に触れるきっかけになれば幸いである.the Quintessence. Vol.44 No.10/2025—2056はじめにAtsuo Sakurai, Aoi Tanaka, Seikou Shintaniキーワード:乳歯う蝕,う蝕進行抑制処置,コンポジットレジン冠,既製金属冠Skill Up! Mastering Crown Restorations for Primary Teeth78櫻井敦朗/田中亜生/新谷誠康 全国の歯学部・歯科大学で小児歯科学に関する教育が始まり,小児歯科学講座が各大学に誕生しはじめたのは約70年前のことらしい.つまり,ほとんどの読者の先生方は,小児歯科学を学び,マネキンを使った実習を経験したはずである.しかし,そこで学んだ手技を卒業後に実践している先生は本当に少ない.悲しいことに,さして必要だとも感じられていない. 子どもはじっとしているのが難しかったり,痛みを与えると泣いてしまったりして,成人と同様の治療を行うことが難しい.そのためか,「乳歯の治療は簡単にう蝕歯質を取って詰めればいい」,そう思っている歯科医師は少なくない.しかし,筆者ら東京歯科大学小児歯科学講座連絡先:〒101‐0061 東京都千代田区神田三崎町2‐9‐18特 集 3Skill Up!乳歯の歯冠修復乳歯の歯冠修復乳歯の歯冠修復
元のページ ../index.html#5