ザ・クインテッセンス 2025年11月号
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71the Quintessence. Vol.44 No.11/2025—22631)顎関節円板障害の定義,病態①定義 顎関節症は,顎関節や咀嚼筋の疼痛,顎関節雑音,開口障害ないし顎運動異常を主要症候とする障害の包括的診断名である.その病態は,咀嚼筋痛障害,顎関節痛障害,顎関節円板障害および変形性顎関節症であると定義されている1(図1). この顎関節症の4つの病態分類のうち,顎関節円板障害はもっとも発症頻度が高く,患者人口の60~70%を占めるといわれている2,3.顎関節円板障害は,「関節円板の位置異常ならびに形態異常に継発する関節構成体の機能的ないし器質的障害」と定義されており3,主要な病態は関節円板の転位で,ほとんどは前方ないし前内方に転位しているが,稀に内方転位,外方転位,後方転位を認める. 前方転位は,開口時に関節円板が復位するもの(Ⅲa型:復位性関節円板前方転位)と復位しないもの(Ⅲb型:非復位性関節円板前方転位)に大別され,MRIにより確定診断を得ることとなる.②病態 顎関節の開閉口時の動態およびMRI画像を図2~5に示す.正常な顎関節-関節円板(図2)は,閉口時に関節円板は下顎頭-関節窩の間に位置しており,開口時に下顎頭の前方滑走にともなって関節円板も下顎頭-関節結節後方斜面に介在しながら最大開口位まで移動することになる.⇒患者説明トーク:正常な顎関節の動き 復位性関節円板前方転位(図3)においては,閉口時に関節円板は前方転位しており,開口時に下顎頭が前方滑走してくると,下顎頭が関節円板の後方肥厚部を乗り越えて関節円板中央狭窄部にすべりこんで下顎頭-関節円板-関節結節の位置関係は正常となる.閉口していくと,円板は前方転位する.開口時に下顎頭が関節円板を乗り越え正常位置となる際に,および閉口時に関節円板が正常位置から前方に転位する際にクリックを生じる.クリックは弾撥音と訳され,「カクン」「ポキッ」「コクッ」と表現され,第三者に聞こえる可聴音,触診で感知することができる可触音がある. 非復位性関節円板前方転位(図4)においては,閉口時に関節円板は下顎頭の前方に転位しており,開口しても下顎頭と関節結節後方斜面の間に復位することができない状態であり,発症初期の段階では下■顎関節の病態分類(2013)図1 顎関節症の診断は,「顎関節症の診断基準(2019)」に基づいて,「顎関節症の病態分類(2013)」を行う.■咀嚼筋痛障害(Ⅰ型)■顎関節痛障害(Ⅱ型)■顎関節円板障害(Ⅲ型)a.復位性b.非復位性■変形性顎関節症(Ⅳ型)1.顎関節円板障害とは註1:重複診断を承認する.註2:顎関節円板障害の大部分は,関節円板の前方転位,前内方転位あるいは前外方転位であるが,内方転位,外方転位,後方転位,開口時の関節円板後方転位等を含む.註3:間欠ロックの基本的な病態は復位性関節円板前方転位であることから,復位性顎関節円板障害に含める.

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