現在、各メーカーがこぞって開発を進めている口腔内スキャナ(Intraoral Scanner:IOS)。そのポテンシャルを最大限に生かせるのが、デジタル技術との親和性が高いインプラント治療だと言われている。本企画では、そもそもIOSとは何かという基本中の基本から、IOS購入を悩んでいる臨床家が一番知りたい価格や維持費、さらにインプラントメーカー別のガイド・スキャンボディ対応表、そして導入が読者のインプラント臨床に何をもたらすのかまでを仔細に説明する。(編集部)丸尾勝一郎(Katsuichiro Maruo)神奈川歯科大学口腔総合医療学講座補綴・インプラント学特任講師 口腔内スキャナは インプラント臨床に何をもたらすのか16Quintessence DENTAL Implantology─ 0516スマホで動画を見よう(p.11参照)特集1SPEAKER’S ARTICLE第8回 日本国際歯科大会2018Eホール10/5(FRI)午後SPEAKER’S ARTICLE第8回 日本国際歯科大会2018Hホール10/7(SUN)午後P016-036_QDI04_toku1.indd 162025/01/07 13:35 口腔内スキャナ(以下IOS;Intraoral Scanner)というと、「精度はどうなの?」、「まだまだ高いんでしょう?」などと、どちらかというとネガティブな印象を持たれる読者は多いのではないだろうか。しかし、思い出して欲しい。デスクトップパソコンがまだ分厚いブラウン管のモニタでワープロ程度の機能しかなく、フロッピーでデータを交換していた時代を。その時代から、皆さんが今お使いの薄型ノートパソコンに多彩な機能が搭載され、無線LANでデータとやりとりし、日々の業務から手放せない生活必需品になるまで、いったいどれくらいの期間がかかっただろう? 現在市販されているIOSは、テレビやPCのモニタがブラウン管から薄型液晶へ変わったパラダイムシフトをすでに達成しているといっても過言ではない。つまり、あとは時間の問題で精度や適応が拡大していくのは自明の理である。 そこで今回は、読者の日常臨床において、将来必需品となりうるこのIOSが、いま現在「何ができて」、「何ができないのか」をわかりやすく解説するとともに、インプラント治療に特化して、購入予定者から初心者、そしてすでにお使いの読者まで幅広く役立つ情報を提供することを目的とした。はじめにIOSとは?〉そもそもIOSって何に使えるの? デジタルというとCAD/CAMはなんとなくわかるけど、スキャナとなるとピンとこない、という読者もいるのではないだろうか。しかし、デジタル歯科は非常に単純で “Digitalization”→“CAD”→“CAM”の3つのステップからなる(図1)。 CAD/CAMはご存知のとおりだが、CAD/CAMで何かを製作する際には、必ず生体情報をデータ化する必要がある。読者がジルコニアという材料を使っていたら、すでにデジタル歯科を実践していることに他ならない。つまり、院内では従来法の印象に石膏を注ぎ模型製作し、すべてアナログで完了しているつもりでも、その後歯科技工所で技工用スキャナを用いて模型という生体(口腔内)情報をSTLデータというフォーマットにデジタル化し、CADソフトウェアにインポートし設計を行っているのである。 IOSとは、簡単にいうと、従来のアルギン酸やシリコーンなどの印象材を用いた印象法の代替法であり、口腔内の生体情報を直接的にデジタル化するものである。IOSを用いた印象を光学印象・デジタル印象という(動画1)。原理は、口腔内の情報を静止画像または動画で撮影し、それをソフトウェア上で瞬時につなぎ合わせることにより、立体的に三次170517 ─Vol.25, No.4, 2018P016-036_QDI04_toku1.indd 172025/01/07 13:35・電子カルテ・WEB予約システム・キャッシュレス決済・WEBマーケティング・治療シミュレーションソフトの活用・画像管理のクラウド化・CAD/CAM技工に特化した歯科技工所の設立デジタル歯科最前線! ~これからの歯科医院のデジタル活用~ 巻頭特集1表1 マルオ歯科の経営面と臨床面におけるデジタル活用。今後は現在歯科医院経営の争点となっているスタッフ確保の観点から、自動精算機やチャットボットなどの導入も検討中。経営面におけるデジタル活用臨床面におけるデジタル活用 医院でデジタル化を進める際、院長の独断だけで進めることは難しく、スタッフの協力が不可欠です。抵抗感をもつスタッフに対しては、「業務の効率化によって仕事の負担が軽減されること」や「患者満足度の向上が医院の評価につながること」を具体的に説明し、時間をかけて納得してもらうことが重要です。また、導入の際には運用責任者を任命し、責任者を中心とした管理体制を整えることで、デジタル機器が使われずに終わるリスクを防げます。さらに、小さな成功体験を積み重ね、デジタル化の恩恵をスタッフ全員が実感できるようにすることで、スムーズな導入が可能となります。131. 丸尾勝一郎.Dr.マルオの歯科大学では教えてくれないヒト・モノ・カネ・情報 若手歯科医師がキャリアに悩んだときに読む本.東京:クインテッセンス出版,2024.<了>ウェアで埋入シミュレーションや分析を行い、それを歯科技工士と共有していましたが、今後はクラウド上のソフトウェアを使用しての作業が可能となり、場所を選ばずどこでもシミュレーションや治療分析が行えるようになります。また、ソフトウェアのアップデートが不要になる点も大きなメリットです。 生体情報のデジタル化という点では、CTやIOSに続き、フェイシャルスキャナが注目されています。この分野はまだ発展途上ではありますが、フルアーチのインプラント修復や矯正治療において、顔貌との調和をデジタルで可視化できることは非常に有用なツールとなるでしょう。さらに、AI(人工知能)を搭載したソフトウェアの開発も劇的に進歩しており、診断、分析、シミュレーション、デザイン、データ解析など、さまざまな分野でAIの恩恵を受けることが期待されています。丸尾:当院では、IOSのデータ入稿に特化した技工所を設立するにあたり、都心の限られた高額なテナントスペース内に院内技工エリアを設けるのは経営的に合理的ではないと判断しました。また、雇用予定の歯科技工士が神奈川県厚木市に居住していたため、働きやすい環境を整えるとともに家賃コストを抑える目的で同市に設立しました。技工所ではクラウンやインレー、インプラント上部構造などを製作しており、当院の約80%の技工物をたった1名の歯科技工士が良好な環境下で担っています。——では最後に、丸尾先生が考える、今後の歯科界におけるデジタル活用の可能性や展望と、自院をデジタル化したいけれどなかなか進んでいないという読者へのアドバイスをお願いします。丸尾:IOSについては、先の特集にも書いたとおり、PCと同様にコモディティ化が進み、多機能なものから安価なものまで幅広いラインアップが市場に登場しています。近年ではワイヤレス化が標準になりつつあり、取得したデータはすぐにクラウドにアップロードされるため、歯科技工士との共有が即座に可能となっています。さらに、今後はそのクラウド上で直接作業を行う、いわゆるクラウドコンピューティングの時代に突入していくことが予想されます。具体的には、これまでは医院に設置されたPC上のソフト図2 丸尾氏が2022年に設立したIOSのデータ入稿に特化した技工所・NEXT NODE(神奈川県厚木市)。図1 当時は新規性のあったIOSをいち早く臨床で使いこなしていた丸尾氏に記事を依頼し、幅広い読者層から好評を得た。参考文献
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