デンタルアドクロニクル 2025
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i SugawaraDr. Junj菅原準二(すがわら・じゅんじ)巻頭特集1-5  デジタル歯科最前線! ~これからの歯科医院のデジタル活用~14デジタルとの出会いとCDS分析の開発全症例データを症例報告様式で管理日本のデジタル競争力と矯正歯科臨床歯科医師 / 歯学博士 医療法人八峯会矯正歯科 菅原準二クリニック(宮城県)東北大学歯学部卒業。同大学歯科矯正学講座にて教鞭を執る。米国コネチカット大学客員臨床教授、一般歯科診療所の矯正歯科部門を経て現職。アメリカ矯正歯科学会をはじめ、世界各地におけるスケレタルアンカレッジシステム(SAS)やサージェリーファースト関連の招待講演は250回を超える。日本矯正歯科学会認定医・指導医・臨床指導医(専門医)。が、当時はデジタル化にのめり込むことはなく、将来の変革についても予見できなかった。 現在、私がデジタル化の恩恵を受けていることのひとつに、全症例の資料をプレゼンテーションソフトウェアKeynoteで症例報告様式にしてパソコンに保存管理していることがある。 私は東北大学に33年間勤務したが、当時は顔貌写真、口腔内写真、各種エックス線写真、歯列模型などの資料がすべてアナログであったことから、それらを個別のバインダーに整理し、模型は箱に収納するなどの手間がかかった。症例数が1万を超えたところで大きな資料室が満杯になり、模型の重量で床が抜けそうになったため、古い症例から医療ゴミとして廃棄せざるを得なくなった。担当医だった医局員もすっかり入れ替わり、貴重な資料が利用されないままゴミになってしまった。 その後、患者資料はすべてデジタル化され、パソコンの記憶容量も膨大なものになり、状況は革命的に変化した。私もその恩恵に浴し、20年前から全症例の診断・治療・長期経過データを症例報告様式に統合してパソコンの記憶媒体に保存することをルーチン化し 最近、スイスのビジネススクールIMDが、2024年の世界デジタル競争力ランキングを発表した。日本の総合順位は31位で、6位の韓国、7位の香港や9位の台湾など近隣の東アジア諸国から大きく水を開けられている。評価尺度に問題があると指摘する専門家もいるが、矯正歯科分野に身を置く私の目にもあながち的外れのランキングには見えない。なぜならば、このところ市場に出回っているデジタル機器の多くが、他の東アジア諸国において生産されたものだからだ。 かつて技術大国を誇っていた日本は、バブル崩壊後の失われた30年で、競争意欲をスポイルされてしまったのだろうか。矯正歯科臨床においても東アジアのリーダーとして君臨していたはずの日本は、アライナー矯正歯科に象徴されるようにいつの間にかその座を明け渡してしまった感がある。これは、日本のデジタル競争力の遅れと符合する。今後、巻き返しが図られることを先の世代に期待するほかない。 私は団塊の世代として生まれ育ったが、100%アナログの時代からいつしかデジタル化の波に飲み込まれ、今や想像を絶するデジタル時代に何とか順応して生息している状況だ。 私が初めてデジタルという言葉を耳にしたのは、1975年ごろのことだ。東北大学歯学部歯科矯正学講座に入局して間もなく、当時の教授からセファログラムの自動解析という研究課題をいただき、東北大学電気通信研究所との共同研究プロジェクトに加わったことがきっかけだった。しかしスキャン精度の限界などからセファログラムの読み取りが困難で早々に断念し、セファロトレースの自動解析へと切り替えた。 デジタルとはほど遠い世界で教育を受けてきた私にとって非常に高いハードルに思えたが、同研究所の金森吉成先生らのおかげで数編の研究論文を発表することができた。この研究の副産物がCDS(平均顔面頭蓋図形)分析である(図1)。正常咬合者のセファロトレースをスキャナーで全点入力し、線図形パターン認識システムによってCDS作成まで全自動で行うことができた。この分析法は単純かつ明解で、従来のセファロ分析に関する知識が皆無でも理解できる方法であり、患者説明や他の専門分野との連携治療において威力を発揮する。 私にとってこれが矯正歯科臨床におけるデジタル化との出会いであったデジタル化と高齢の矯正歯科医

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