デジタル歯科最前線! ~これからの歯科医院のデジタル活用~ 巻頭特集1オンラインエデュケーションの取り組みアライナー矯正治療は高齢ドクターに最適15立ち上げ、全国の矯正歯科医や口腔外科医などを対象に、対面での教育コースを開始したばかりであった。ところが間もなく日本もCOVID-19パンデミックとなり、対面講義が困難になったことから、それまでまったく経験のなかったオンラインコースへ切り替えることにした。 最初は不安視していたものの、実際に経験してみると対面講義にはないメリットがあると実感するようになった。第一に、受講者と講師双方の時間と経費を大幅に節約できる。第二に、講師のパソコン画面を受講者に共有することで、対面スクリーンよりも鮮明な画像を見ながら聴講できる。第三に、講師が講義内容を録画して受講者に事後配信することにより、理解を深めることができる。オンラインエデュケーションはまぎれもなくデジタル化の恩恵によるもので、先述のように、私はこの20年間に治療した全症例を症例報告様式で整理していたことから、配信するコンテンツには事欠かなかったことも幸いした。アナログ人間であった高齢の矯正歯科医がデジタル化を先導することはきわめて困難であるが、デジタル化を忌避せずに、むしろ順応することによって若い世代とは異なった独自の展開を図れることを知った。 この先、デジタル化は矯正歯科臨床にどんな変革をもたらすのか、それが楽しみでなかなか引退する気になれない自分がいることを感じている(笑)。ている。これによって大学時代に経験した資料の紛失や散逸を避けることができるようになり、いつでもどこでもプレゼンテーションが可能になった。昔、大学の資料室に収納されていた膨大な数のバインダーや歯列模型などが、今や1台のパソコンで管理できることに感動を覚えるのは、そのような時代を経験した者だけであろう。 現在、歯科界におけるデジタル化の象徴でもあるアライナー矯正治療が、世界の矯正歯科臨床のスタンダードになりつつあることは衆目の一致するところだ。ワイヤー矯正治療の教育を受け、それを極めようと臨床に勤しんできた私にとり、アライナー矯正治療は当初受け入れがたいものだった。20年ほど前、恩師のひとりであるC. J. Burstone先生(前・コネチカット大学歯学部教授)が「アライナーの作製法はハイテクだが、使いかたはローテクだ」と揶揄したように、当時はワイヤー矯正治療と比較にならないほど質が低いものだったのだ。 しかし改良が重ねられ、アライナーは今やワイヤー矯正治療と遜色のないレベルに達するようになった。私は遅まきながら2年ほど前からアライナーを臨床に取り入れ始めたが、次第にその利点を実感できるようになった。審美性に優れることも大きな利点だが、それ以上に治療中の歯の疼痛が少ないことがある。現在では、小児患者の第1期治療と中高年患者には、積極的にアライナー矯正治療を勧めている(図2)。小児と中高年はいずれも疼痛に弱く、想像以上に見た目を気にするからだ。 また自らの体験から、アライナー矯正治療は高齢で経験豊かな矯正歯科医に向いているのではと感じる。第一に、おもにパソコンで作業を行うため、ワイヤーのベンディングや結紮など細かな作業が不要で、加齢にともなって視力が衰えてきても問題がない。第二に、豊富な臨床経験を有するため、たとえアライナーによる歯の移動が計画どおりいかなくても、さまざまな方法でリカバリー治療ができる。第三に、来院ごとのチェック作業の多くを歯科衛生士に委ねることができる。アライナー矯正治療を実践することによって、高齢ドクターの臨床寿命が延長するとともに、社会貢献の機会がおおいに増えるだろう。 新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミック前後で、人びとのライフスタイルが変化したという話をよく耳にする。私の場合はCOVID-19が自身のライフスタイルを変化させるまでは至らなかったものの、新たなことに挑戦するきっかけとなった。 私は2019年、矯正歯科臨床教育に特化した会社(株式会社J-Project)を図3 COVID-19を契機に始めたオンラインエデュケーション。 [写真はイメージです]図1 CDS分析に用いる平均顔面頭蓋図形。図2 ツインブロック付きアライナーを用いた第1期治療。
元のページ ../index.html#17