ザ・クインテッセンス ダイジェスト見本誌2025
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15232の3大POINTリクッチ先生の“結論”う蝕治療を受けた歯は,生涯にわたって歯髄の形態学的変化を示し,歯根部歯髄は歯冠部歯髄よりも早く,より重度に影響を受ける.細菌や細菌の副産物が象牙細管に侵入すると,歯根部歯髄の象牙芽細胞は細胞死を起こす可能性があり,おそらくはアポトーシスによるものと考えられる.直接覆髄,または断髄によって歯髄の生活状態は維持されるかもしれないが,形成される修復組織は真の細管構造のある象牙質ではなく,石灰化した線維性瘢痕組織に似ている.5-Dジャパンの歯髄閉塞に関する見解歯髄閉塞は,歯髄の感染により起こるのでなく,象牙芽細胞が死滅した後に起こる1つの組織反応であり,コントロールはできない.もし歯髄閉塞しても,そこに感染がなければ病変はできないため,VPT後の歯髄腔の閉塞は,けっしてVPTの失敗を意味するものではない.葉細胞が象牙芽細胞様細胞に分化し,硬組織形成さ復とは,創傷治癒と線維化の両方をともなう損傷にれるといわれています11が,リクッチ先生は,歯髄対する反応であり,組織構造が永久的に変化します.腔に添加した硬組織は,どのような細胞によって形形成された硬組織には象牙質の細管構造が存在せず,成されるとお考えでしょうか?修復象牙質形成は再生とは見なされません.このプリクッチ:2014年や2018年の研究9,10で考察していロセスは,歯髄線維芽細胞による石灰化した瘢痕組ますが,組織再生とは,失われた細胞や損傷した細織を形成する,修復反応である可能性が高いと考え胞または組織を置き換えるために細胞や組織が増殖ています.し,正常な組織構造を回復することです.逆に,修石川:断髄後の成功基準に関して,電気歯髄診 デンタルエックス線写真により,根尖周囲組織に(EPT)が反応しない場合も見受けられます,リクッ問題がないことも重要です.また症状がないこと,チ先生は,何を基準にVPTの成功と判断されていま打診も正常であるべきです.そして,歯根吸収にもすか? また,どのように歯髄が生活状態かを判断注意を払う必要があります.されるでしょうか?福西:VPTに関する術式選択や予後の判定など,リリクッチ:VPT後の歯髄がバイタルか否かを診断クッチ先生の見解を教えていただきありがとうござする方法はありません.これは断髄面の深さにもよいました.VPT後に形成される硬組織は細菌侵入ります.歯頸部にEPTにて刺激を与え,反応がなけに対して抵抗性がないこと,そして,一度死滅したれば失活しているかもしれません.象牙芽細胞は再生することはなく,正常な歯髄組織the Quintessence. Vol.44 No.1/2025̶0043432024/12/13 9:01p030-045_TQ01_toku1.indd 43APPE_p030-045_TQ01_toku1.p14.pdf2024/12/13 9:01■治療終了2年6か月経過時の気道容積図32 治療終了から2年6か月経過時(2023年4月).気道容積は9,050mm3に増加した.ものの,経過観察としか説明を受けることができず,また家族の不安を解消してあげることができて本当不安が募っていましたが,貴院で治療が行えるとわに良かったと思っています.単独治療では効果が不かり希望がもてました.十分かもしれない歯科的アプローチですが,医科と連携して筋機能矯正治療を行うことで効果が発揮で 微力ながら1人のお子さんのOSA症状を改善し,きたのだと感じました. 小児OSAは上気道抵抗によって発症しているこまだ不明確なところが多いのが現状です.日本睡眠とが多く,その原因は成長発達期での顎顔面領域の歯科学会の初代理事長である菊池哲先生は,論文の発達不全や機能不全に起因することも少なくありまなかで次のように述べています21.せん.筆者は,不正咬合は顎顔面領域の発達不全や「今後私たちはさらなる研究を続け,OSAを起こし機能不全の結果であって,OSAや上気道抵抗の1づらい顎顔面形態を子どもたちに与えられるようにつの症状であることも念頭に置き,スクリーニンンしていかなくてはならない.それは治療のたびに口グの意識をもちながら日常診療を行っています.当の中を覗く耳鼻咽喉科医そして歯科医の大きな責任院での小児OSAへのアプローチは,対症療法よりではないかと思う」も原因療法に着目しており,上気道の通気障害など われわれも原点に立ち返る必要があります.小児による顎顔面領域の発達不全を医科と連携して改善医療において,どんな領域も,どんな治療法も,目に向かわせ,口腔周囲筋の機能不全や姿勢不良を筋的は“子どもたちの明るい未来のため”であることに機能療法によって改善させることを目標としていま変わりはないと思います.小児の睡眠医療を軸に,す.そして将来,OSAや上気道抵抗を認める患児各団体が手を取り合い,協力して,口腔領域の専門が成人期にCPAPや口腔内装置(OA)を頼らずに生活家である歯科としての役割を果たし,子どもたちのできることを目指しています.未来のために前向きな発展ができることを願ってい しかし,小児OSAへの治療方針,評価方法はいます.the Quintessence. Vol.44 No.1/2025̶0083832024/12/13 9:10p064-084_TQ01_toku3.indd 83APPE_p064-084_TQ01_toku3.p20.pdf2024/12/13 9:10質問者:吉野 晃図3a図3b図3a,b 経時的に増大した上顎口蓋隆起.a:2015年4月.b:2024年5月. 患者は51歳,女性.口蓋正中部と上顎右側大臼歯併して発症しているため,古くから長期にわたる咬部に偏った骨膨隆を認めます.約10年経過した現在,合力(メカニカルストレス)の産物であると認識され2つの骨隆起は接触するまでに発育してしまいましてきました.しかし,環境因子よりもむしろ遺伝的た.また,咬耗と思われる歯質欠損も併発し,潜在要因のほうが強いと考える報告4もあり,その発生的な力の関与が疑われます.メカニズムは明らかではありません.そこで骨隆起 骨隆起は過度の咬合力を推察できる臨床所見と合の発達と咬合力の関係性についてお聞きしたいです. 力が粘膜や歯根膜に加わると,Q02の図2aのように骨を強化する仕組みが存在するのです.骨隆起うに炎症と骨吸収が生じますが,骨(骨細胞や骨膜)の好発部位は,咬合力が最終的に集積する場所と一に加わった場合には骨形成に傾くと考えられます.致することが示されています6.咬合力の強い患者2001年に骨の形成を抑える“スクレロスチン”というさんの顎骨はアスリートの骨のような状態であり,タンパク質が発見されました5.スクレロスチンの力に負けないように,また顎骨を補強するように生遺伝子を欠損した患者さんでは,全身の骨が丈夫に体が反応した結果,骨隆起が形成されると考えられなり骨折リスクは減りますが,頭蓋骨も分厚くなっています.てしまい,脳が圧迫されてさまざまな神経症状が生じます.このような患者さんは,例外なく口腔内に巨大な骨隆起を発症します. 通常は,スクレロスチンは骨に埋もれている“骨細胞”が産生しており,骨に力が加わると産生が抑えられ,骨形成の抑制が解除されることで,骨量が増加します.アスリートの骨は丈夫なことが知られていますが,これは運動によって骨に力が加わり,骨細胞でスクレロスチンの発現低下が起こるためと考えられています. 力が頻繁に加わる骨の部位では,力に負けないよthe Quintessence. Vol.44 No.1/2025̶0051512024/12/13 9:02p048-061_TQ01_toku2.indd 51APPE_p048-061_TQ01_toku2.p4.pdf2024/12/13 9:021特 集Recommended Literature健康で無傷な歯,および深在性う蝕,または修復処置に対する反応における,歯根部の象牙質・歯髄複合体の変化:組織学的および組織細菌学的研究目的:中程度または重度の未治療のう蝕病変があるヒト根完成歯の根管歯髄,および修復または直接覆髄が施された歯の根管歯髄に生じた組織学的事象を,とくに根管壁の象牙質形態や象牙芽細胞層に重点をおき調査すること.図9a 16歳,女性の下顎左側第二大臼歯.う蝕除去中に遠心髄角が露髄した.直接覆髄後にコンポジットレジンにて修復された.図9b 19か月後のデンタルエックス線写真.根尖周囲は正常で,歯髄感受性試験に正常に反応した.遠心根管と比較して近心根管に歯髄閉塞が見られた.その後,遠心歯質が骨レベルまで破折し抜歯された.図9c 図9bのデンタルエックス線写真(左線)の近心根断面(HE染色×16).図9d図9e図9d 歯髄閉塞が見られた近心根の舌側根管の拡大図.図9e 頬側根管の拡大図.根管全周の大部分で象牙芽細胞が欠如している(HE染色×100,挿入図×400).図9f図9g図9f 図9bのデンタルエックス線写真(右線)の遠心根断面(HE染色×16).図9g 中倍率では,正常に見える象牙質や象牙前質,象牙芽細胞が,根管壁の周囲2/3から識別できる(HE染色×100).42the Quintessence. Vol.44 No.1/2025̶0042p030-045_TQ01_toku1.indd 42APPE_p030-045_TQ01_toku1.p13.pdf3特 集■初診時と治療終了2年経過時の口腔内写真と右側貌写真図30 初診時(2018年11月).口腔内所見では,上下顎の前歯に叢生を認め,狭窄歯列であった.側方面観では,下顎後退を認めた.図31 治療終了2年経過時(2022年10月).口腔内所見では,上下顎ともに歯列が側方と前方に拡大し,側方面観では下顎後退が改善した.3)術後の保護者からのコメント介いただき,ハウスダスト,スギ花粉に対する舌下 最後に,術後3年経過時に患児の母親へ行ったア免疫療法を開始し,鼻炎症状が軽減しました.ンケートをご紹介します.「術後3年が経ちました.今の症状はいかがです「当院にかかられてからの症状などの変化はどうでか? 感想を教えてください」➡いびきはみられてしたか?」➡いびきはほとんど気にならなくなりまいません.日中,口を開けていることはなく,鼻呼した.また,子どもの睡眠を専門とする小児科を紹吸が行えていると思います.(OSAと)診断は受けた82the Quintessence. Vol.44 No.1/2025̶0082p064-084_TQ01_toku3.indd 82APPE_p064-084_TQ01_toku3.p19.pdf2特 集質問者:曽根田皓士図2a図2b図2a,b a:外傷性の咬合力と思われるエックス線透過像が確認できる(2017年6月).b:咬合調整後約7年.デンタルエックス線写真では改善傾向に見える(2024年5月). 患者は55歳,男性.6のデンタルエックス線写真欠損の回復傾向が認められました.の透過像は外傷性の咬合力によるものと判断しまし 本症例が示すように,力(咬合力)のみで骨が破壊た.ナイトガードの使用と咬合調整によって,デンされる,または力を除去することで骨が回復するこタルエックス線写真上では近心の歯根膜と遠心の骨とはあるのでしょうか? 近年,特殊な動物飼育設備が開発され,常在菌が 以上のことから,細菌がいない状況でも力だけでいない完全無菌のマウスで実験することが可能にな骨吸収が起こりうることが実験的に証明されていまりました.興味深いことに,無菌マウスを硬い餌です.実際には無菌状態の患者さんはいませんし,細飼育したり,歯肉を物理的に刺激すると,歯周組織菌が歯周病の発症および進行に重要な役目を果たすに免疫細胞が集まってきて炎症と骨吸収が生じるこことに疑いの余地はありません.「細菌と力のどちとが示されました3.らが重要か?」という質問を受けることがありますが,単位がまったく違う2つの要素を比較することはできず,患者さんによっても口腔内部位によっても異なる(主に力で骨吸収が起きている場合もあれば,細菌が主役の場合もある)と考えられます. 面白いことに,前述の論文3では皮膚でも同様に,力が繰り返し加わると免疫細胞が集まってくることが示されています.皮膚や粘膜は外界と接するバリア部位であり,刺激が加わると免疫細胞がパトロールに駆けつける仕組みが備わっているのでしょう.皮膚は面積が広く人体でも最大の臓器の1つなので,乾布摩擦が免疫を刺激するという言い伝えにも一理あるのかもしれません.50the Quintessence. Vol.44 No.1/2025̶0050p048-061_TQ01_toku2.indd 50APPE_p048-061_TQ01_toku2.p3.pdfリクッチ先生の歯髄閉塞に関する研究10Question力だけで骨は壊れるのか?VPTの成功基準おわりにQuestion骨隆起はなぜ起こるのか?AnswerAnswerthe Quintessence 2025 ダイジェスト見本誌1月号 特集1より1月号 特集3より021月号 特集2より 的確な治療を施すことができなければ患者は離れていく.だからこそ,日常臨床において技術力はやはり不可欠である.最新の技術と知識を写真とイラストで丁寧に解説.最新エビデンスや動画解説も網羅. 現在の少子超高齢社会で必要とされる知識や臨床力アップに最適な特集.幼少期から一生にわたって患者をみられる知識と技術を解説. 患者の口腔の健康を守るには医院総合力の向上が不可欠である.単に院長先生だけが奮闘するのではなく,医院全体で知っておきたい・共有したい知識と技術と考え方が学べる.03POINTPOINTPOINT時代の要請に応えられる「知識・技術・考え方」がわかる!2025年“患者のQOL向上”のための歯科臨床総合誌アドバンス・テクニック特集少子超高齢社会対応特集医院で共有したい口腔の健康を生涯守る特集

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