ザ・クインテッセンス ダイジェスト見本誌2025
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古川尊寛*1/石川 亮*2/福西一浩*3/Domenico Ricucci*4Round-Table Talk:Let’s Study with Dr. Ricucci about the Interface between Histology and Clinical PracticePart1. Pulp HealingTakahiro Furukawa, Ryo Ishikawa, Kazuhiro Fukunishi, Domenico Ricucciキーワード: Vital pulp therapy,選択的・非選択的う蝕除去, 石灰化バリア30the Quintessence. Vol.44 No.1/2025—0030p030-045_TQ01_toku1.indd 302024/12/13 9:01p030-045_TQ01_toku1.indd 31VPT:深在性う蝕と露髄のある歯を治療するための,組織病理学と組織細菌学に基づいたガイドライン目的:深在性う蝕歯に対するVPTの適応症を解明し,多数の症例からの組織病理学,および組織細菌学に基づいた,VPTのガイドラインを作成し提示すること.根完成永久歯深在性う蝕可逆性歯髄炎図3 歯髄壊死の進行程度により,断髄位置が決定される.露髄いいえはい窩洞の底部に健全象牙質が存在する・ 露髄部周囲に健全象牙質が存在する・血流があり連続性のある歯髄・ 2分以内に出血がコントロールできる・ デンティンチップが存在しないはいいいえ図5 深在性う蝕に対するVPTの術式選択におけるフローチャート.リクッチ先生らは,術前の歯髄診断や露髄の有無,露髄面へのデンティンチップの有無や歯髄組織の連続性,そして出血のコントロール時間から,術式を決定するためのフローチャートを提示した.図4 この4つの条件を確認し,満たしていれば断髄面に水酸化カルシウム系製剤を貼付する.条件を満たさない場合は,断髄面をより深くまで進めていく必要がある.う窩の修復生体適合性/生体活性材料による直接覆髄提示したVPTガイドラインにおいて,治療選択に対する意思決定のためには,象牙質面,および深在性う蝕下で露出した歯髄組織を,マイクロスコープによって直接診査することが必要である.また,VPT成功のためには,処置中の厳格な無菌的処置が重要となる.VPTの成功のためには,無菌的処置の必要性や,切断歯髄面をマイクロスコープで観察する“直接歯髄診査”によって,残せる歯髄かどうかを判断することが重要なことには同感である.しかし,直接覆髄や部分断髄時のデンティンチップが歯髄腔内に迷入するリスクや断髄面の大きさを考えると,やはりわれわれは部分断髄よりも根管口付近で断髄する全部断髄を推奨したい.the Quintessence. Vol.44 No.1/2025—0036the Quintessence. Vol.44 No.1/2025—00372024/12/13 9:01p030-045_TQ01_toku1.indd 37リクッチ先生のVPTに関する研究8リクッチ先生の“結論”5-DジャパンのVPTに関する見解APPE_p030-045_TQ01_toku1.p8.pdfRecommended Literature不可逆性歯髄炎露髄・連続性のある歯髄組織・ 2分以内の出血のコントロールはいいいえ断髄抜髄372024/12/13 9:01座談会座談会前編前編歯髄の治癒歯髄の治癒1特 集VPTの治療方針①直接覆髄う蝕や外傷により露出した歯髄に薬剤(水酸化カルシウム製剤・MTA)を貼付し,歯髄を完全に温存する方法②部分断髄歯冠部歯髄の一部のみを切断し,残りの歯髄を温存する方法③全部断髄福西:リクッチ先生とわれわれ5-Dジャパンは, 今回の座談会では,前回より5年の月日が流れ,以前(2019年3月)に座談会をさせていただき,そのその間,少なからず新しい研究や知見が出てきてい内容は,2回に分けてザ・クインテッセンス誌に連ることを受けまして,さらに深く掘り下げて議論をVPTを適用するための4つの条件歯冠部歯髄をすべて除去し,根管口直下の根管歯髄を温存する方法載しました(2019年11月号,12月号参照).したいと思います.今回の座談会のディスカッション項目●う蝕除去1. 露髄周囲の象牙質が健全であること.2. もっとも重要な条件として,切断した歯髄表面は赤く均一な血流のある状態が確認され,黄色く液化した部分や暗い非出血領域が見ら●Vital pulp therapy(VPT)●石灰化バリア●歯髄閉塞●VPTの成功基準れないこと.3. 歯髄組織内にデンティンチップがないこと.4. 1%NaOCl溶液により洗浄した後,滅菌綿球を露髄面に適用し数分以内に止血すること.●感染根管の根尖部拡大●難治性根尖性歯周炎●嚢胞様病変the Quintessence. Vol.44 No.1/2025—0031コープ下で歯髄を観察し,治療方針を決定しますが,31髄で処置できる場合は,術前の臨床診断が可逆性歯その選択肢(図3)には,直接覆髄,部分断髄,全部髄炎でなければなりません.そして,う蝕を完全にるには,正確な歯髄診断を行うために,う蝕を完全リクッチ:VPTのガイドラインを提示した2019年のに除去する必要があります.その後,マイクロス論文8は,前回の座談会後に発表しました.直接覆断髄があります.私は,根管口レベルで健全歯髄が除去し,その後の意思決定プロセスを導くためにマ確認できなければ抜髄を選択します.イクロスコープにより注意深く観察します.直接覆石川:2019年の論文8を拝読したところ,リクッチ2024/12/13 9:01髄や断髄を行ううえで,4つの条件を満たすかを確先生は,直接覆髄や部分断髄の症例が多いように思認します(図4).います.部分断髄は,断髄面が広くなりがちで止血 歯髄は加圧しないでください.組織に触れると出が難しいことが多いため,私たちは部分断髄よりも血してしまいます.止血時間はさまざまな意見があ全部断髄を選択することが多いのですが,リクッチりますが,重要ではありません.これらが達成でき先生はどこで断髄するかを判断する際に,何を重視なければ,部分断髄を検討します.この論文8ではされているのでしょうか? 何をもって切断面の歯マイクロスコープ下での歯髄組織の観察に依存した髄が生活状態と判断するのかをお聞かせください.フローチャートを提示しています(図5).36p030-045_TQ01_toku1.indd 36*1大阪府開業 ふるかわ歯科連絡先:〒544‐0014 大阪府大阪市生野区巽東2‐11‐23*2兵庫県開業 石川齒科醫院連絡先:〒661‐0033 兵庫県尼崎市南武庫之荘1‐12‐20‐2F*3大阪府開業 福西歯科クリニック連絡先:〒530‐0001 大阪府大阪市北区梅田2‐5‐25‐5F 506*4イタリア開業Dr. FurukawaDr. FurukawaDr. FukunishiDr. Fukunishiはじめに前編で掲載後編で掲載(2月号)APPE_p030-045_TQ01_toku1.p2.pdfAPPE_p030-045_TQ01_toku1.p7.pdf特 集 1Dr. RicucciDr. RicucciDr. IshikawaDr. IshikawaAPPE_p030-045_TQ01_toku1.p1.pdf選択的う蝕除去に対する歯髄と象牙質の反応:組織学的および組織細菌学的ヒトでの研究リクッチ先生の“結論”5-Dジャパンの選択的う蝕除去に関する見解the Quintessence 2025 ダイジェスト見本誌リクッチ先生の選択的う蝕除去に関する研究*3*3. Ricucci D, Siqueira JF Jr, Rôças IN, Lipski M, Shiban A, Tay FR. Pulp and dentine responses to selective caries excavation:A histological and histobacteriological human study. J Dent. 2020 Sep;100:103430.*2. Fusayama T. Two layers of carious dentin;diagnosis and treatment. Oper Dent. 1979 Spring;4(2):63‐70.図1a〜e a:選択的う蝕除去後の窩洞.b:近遠心断面.コンポジットレジン修復の適合は最適で,辺縁漏洩はみられない.c:歯髄腔の中央で切断した断面(左).第三象牙質形成と歯髄結石に注目(HE染色×16).矢印で示した近心壁領域の高倍率で,象牙芽細胞下領域に拡張した毛細血管が確認できる(挿入図,HE染色×400).歯髄腔,天蓋の詳細(右).第三象牙質(TD)は,いわゆる歯根発育線(calciotraumatic line)によって第二象牙質(SD)から分離されている.象牙芽細胞層が減少していることに注目(HE染色×50).d:図1c左図の近位断面(テイラーの改良型ブラウンブレン染色×16).e:長方形で区切られた領域の拡大図.象牙細管の細菌による深部コロニー化がみられる(テイラーの改良型ブラウンブレン染色×400).*1. 日本歯科保存学会.う蝕治療ガイドライン第2版.京都:永末書店,2015.リクッチ先生と学ぶ!リクッチ先生と学ぶ!組織と臨床の接点組織と臨床の接点ほかにも,VPT,石灰化バリア,髄腔閉塞,VPTの成功基準について議論を深めていく.詳細はザ・クインテッセンス2025年1月号で!目的:Firm dentinまで選択的う蝕除去を行い,接着処置による窩洞修復後におけるヒトのう蝕象牙質の組織の細菌学的状態,歯髄の組織学的反応を調査すること.abcde①②③5Leathery dentinやfirm dentinには多量の細菌が観察され,残存細菌により無症状の歯髄炎が起こっていた.VPTの成功のためには,感染組織を完全に除去し,生体活性材料により健全歯髄を保護することが重要である.現在,歯髄症状のない深在性う蝕に対して,単に露髄を避けることを目的とした選択的う蝕除去による間接覆髄は行っていない.露髄に対するリスクを避けるより,感染を取り残すリスクを避けるべきであると考えている.露髄に関する正しい知識と適切な処置を行っていれば,露髄が歯髄保存の予後を左右する因子にはならない.

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