■ 睡眠の役割■ 睡眠と健康,発達,生活の質,脳機能は相互に関係しているHA02017■治療開始時と開始から1年後の気道容積図27 治療開始時(2018年11月)と治療開始1年後(2019年12月)での気道容積の変化.Dentsply Sirona社製のCBCT(Galileos®)で撮影した画像を気道解析ソフトウェア(SICAT Air®)で三次元(3D)構成した上気道の画像.赤が気道容積の狭い箇所を表し,橙,黄色,緑の順に容積が広くなっていることを表している.■当院が用いているOCST機器■筋機能矯正治療前後におけるAHIの推移MFT&Appliance2years2019fullPSG図29 当院にかかる前は高値だったAHIも,筋機能矯正治療開始にともない低値を示し,その値は治療終了後も持続していた.(OCSTは,Watch PATによる推定値pAHI)図28 指先に装着するプローブで末梢の血流量を終夜連続的に測定し,より簡便に検査を実施できる.独自に開発されたアルゴリズムにより睡眠/覚醒や無呼吸低呼吸指数の推定値(pAHI)などを算出し,睡眠呼吸障害の診断に必要な情報を提供してくれる.(写真はWatch PAT®,Itamar Medi-cal社)図28)では参考値ではありますがPFA非装着下でが原因となる場合,摘出手術が第一選択となります.pAHI2.4回/時,治療終了から1年後の2021年12月本症例では,アデノイドや口蓋扁桃に異常を認めずのOCSTでもpAHI2.1回/時と改善の状態を維持し手術適応外である小児OSAにおいて,医科と連携ており(図29),現在もいびきなどのOSA症状は認めして行った筋機能矯正治療によってOSA症状が改ず経過良好です.歯列においても,過蓋咬合や下顎善に向かわせることができました.さらに,定期的後退の改善が認められ,治療終了から2年以上経な睡眠検査によって,筋機能矯正治療の効果が治療過した時点でも良好な状態を保っており(図30,31),終了から長期間経っても持続されていることが示さ咽頭容積も9,050mm3に増加していました(図32).れ,本治療が小児OSA患者にとって有用な治療法 小児OSAでは,アデノイド増殖や口蓋扁桃肥大の1つであることが示唆されました.the Quintessence. Vol.44 No.1/2025—0080the Quintessence. Vol.44 No.1/2025—00812024/12/13 9:10p064-084_TQ01_toku3.indd 812.小児の睡眠障害,何が問題か?6.当院で行ったOSA患児の治療の一例APPE_p064-084_TQ01_toku3.p4.pdfAPPE_p064-084_TQ01_toku3.p17.pdfAPPE_p064-084_TQ01_toku3.p3.pdfAPPE_p064-084_TQ01_toku3.p18.pdf3特 集■スキャモンの発育曲線■良い睡眠による子どもの心身への影響20歳時の臓器を100%とした発育増加率200180160140リンパ系型規則正しく,十分な長さで休養感のある睡眠1201008060神経系型一般型4020生殖器型101214161820心身の発達・健康幸福感,生活の質(Quality of Life)年齢図3 全身の成長発育は4パターンに分類されている.スキャモンの発育曲線は,横軸に年齢を,縦軸に成人を100%とした場合の臓器の発育程度を表している.図4 良質な睡眠が心身の発達・健康に影響し,それが幸福感や生活の質の向上につながり,さらにそれが良質な睡眠につながっていく.(参考文献2より改変引用) ほとんど寝て過ごす乳児期から成長するにつれて,のです.小児期の睡眠がいかに大切かわかります.昼行性の人間として成人になるまでに夜間にまともちろん,ただ睡眠時間が長いだけではいけません.まった睡眠をとるようにゆっくりと生活リズムをつ睡眠には質・量・リズムの3要素が重要で,睡眠休くりあげていくわけですが,小児期は成人よりも睡養感(睡眠で休養がとれている感覚)のある睡眠である眠時間は長い必要があります.その理由として考えことが大切です.それによって,幸福感や生活の質られるのが「脳を創り,育て,より良く活動させる」(Quality of Life)が向上し,身体だけでなく心も豊かという特別な睡眠の機能を働かせるためです3.に成長することができるのです(図4)2.2)睡眠と小児の成長発育環境,生活習慣,日常的に摂取する嗜好品,睡眠障 睡眠休養感は,睡眠時間の不足だけでなく,睡眠 脳の発育に関係する成長ホルモンは,就寝後約90害の有無などのさまざまな要因により影響を受けま分の間に深睡眠といわれるノンレム睡眠期に分泌さす.「健康づくりのための睡眠ガイド2023」2に示され,脳を創り育てています.スキャモンの発育曲線れている,小児期での睡眠推奨事項を図5に示しま(図3)においてもわかるように,脳などの神経系型す.小児の成長発達を支える役割を担っている歯科は一番早く発育のピークを迎え,生まれて5歳頃ま医療従事者として,睡眠衛生指導の一環としてこのでに成人の80%の成長を遂げ,12歳までにはほぼ推奨事項を患児や保護者に伝えていただけると嬉し100%に達するといわれています.生まれてから小いです.学生までの間が,脳の発育にもっとも大切な時間な66the Quintessence. Vol.44 No.1/2025—0066p064-084_TQ01_toku3.indd 662024/12/13 9:10p064-084_TQ01_toku3.indd 67■小児期における睡眠で推奨され小学生は9〜12時間,中学・高校生は8〜10時間を参考に睡眠時間を確保する.朝は太陽の光を浴びて,朝食をしっかり摂り,日中は運動して,夜ふかしの習慣化を避ける.る事項29~12時間8~10時間図5 睡眠衛生指導として小児にこの推奨事項を伝えるだけでなく,保護者にもこれを守れるような環境づくりをお願いすることはセットと考えてほしい.表1 睡眠障害の国際分類.◦不眠症・閉塞性睡眠時無呼吸症◦睡眠関連呼吸障害(OSA)3特 集・睡眠関連低換気・睡眠関連低酸素症◦中枢性過眠症・中枢性睡眠時無呼吸症◦概日リズム睡眠障害◦睡眠時随伴症・むずむず脚症候群◦睡眠関連運動障害(レストレッグス症候群/RLS)(参考文献4より)■当院でOSA患児の治療の主な手法として用いている装置・睡眠関連こむら返り・睡眠関連歯ぎしり・周期性四肢運動異常症1)睡眠障害の国際分類るのでしょうか.一般的に,睡眠障害があると質の 睡眠障害を考えるときにまず押さえておきたいことは,その分類です.睡眠障害国際分類第3版悪い睡眠となり,睡眠休養感を得ることができず,日中の機能障害や睡眠に対する不安からの精神的影図25 上顎拡大床装置(Biobloc Type1).英国のDr. John Mewが考案した上顎拡大床装置.側方だけでなく,前方への拡大も行える.さらに,両側臼歯口蓋側に設置されたシェルフにより,下顎の側方拡大も期待できる.図26 既製の機能的矯正装置(PFA:Myobrace®の1種,K2M).写真はオーストラリアのDr. Chris Farrellが考案された装置で,同様の装置をさまざまな会社が製造・販売している.歯列の状態,成長に合わせてさまざまな種類がある.(ICSD-3)では,表1のように分類されています4.響などでさらなる睡眠障害へという悪循環に至りまこれらのなかで,歯科がよく取り扱うOSAは睡眠す.また,OSAなどを発症していると高血圧症や分類され,睡眠関連歯ぎしりは睡眠関連運動障害にを与えてしまう可能性のある恐ろしい疾患なのです.関連呼吸障害(Sleep Disordered Breathing:SDB)に糖尿病,脳血管障害などを合併し,生存率にも影響分類されます.このように,一言で睡眠障害といっ さらに,小児はもっと注意が必要です.小児にお十分とする結果が目立ちます.しかし,機能的矯正下す必要があるとしており,今後の研究次第ではてもさまざまなタイプがあり,歯科でOSAや睡眠いて睡眠の質・量・リズムの3要素が整っていれば装置や筋機能矯正治療などは,個々の患者のニーズOSA治療の代替療法としての可能性があると論文関連歯ぎしりの装置を用いて治療したとしても,他健康,発達,生活の質,脳機能が良好となり,睡眠を考慮して新しい治療法が有用か,最善の判断を内で述べられていることは希望がもてる内容でした.の睡眠障害が隠れている場合があるので,一助とし状況も良くなる好循環が生み出されるのですが,3かなりえないという認識が必要です.要素のどれかに問題がある場合,睡眠状況が悪く2)睡眠障害が小児へもたらす悪循環し,結果として睡眠の状況も悪くなるという悪循環なって健康,発達,生活の質,脳機能の状況が悪化 それでは,睡眠障害があるとどのような影響があが生み出されるとされています(図6)5. 当院では,近隣の医科と連携してOSA患児の治 歯列形態は過蓋咬合で下顎後退を認め,姿勢はねthe Quintessence. Vol.44 No.1/2025—0067tional Appliance:以下PFA)を用いながら,筋機能療67介したところ,同様に中等症OSAと診断され,当療にあたっています.主な手法として上顎拡大床こ背でした.鼻疾患やOSA症状を認める小児にお装置と,既製の機能的矯正装置(Prefabricated Func-いて当院が主に連携している小児科医に本症例も紹法を併用した筋機能矯正治療を実施しています(図院で医科連携のもと筋機能矯正治療を開始しました.25,26).当院で介入したOSA患児で,同意の得られた症例について供覧します.2024/12/13 9:101)症例の概要2)症例の経過 治療開始から1年が経過した2019年12月に小児科にて行ったPSGは,PFA非装着下でAHI1.6回/時 患児は8歳の女児,保護者の主訴はいびきが治らと改善を示しており,咽頭容積(PNSからEbまでの容ないとのことで2018年10月に当院を受診しました.積)を比較したところ,5,299cm3から6,480mm3に既往に中等症OSA,アレルギー性鼻炎があり,近増加していました(図27).睡眠クリニックでのPSGではAHI7.6回/時でOSAと その後,治療開始から2年後の治療終了時(2021診断されていましたが,アデノイドや口蓋扁桃に異年1月)の評価として,当院で主に成人で使用して常は認めず経過観察となっていました.いる施設外睡眠検査(Out of Center Test:以下OCST,80p064-084_TQ01_toku3.indd 802021.012021.12OCST(Watch PAT)812024/12/13 9:10the Quintessence 2025 ダイジェスト見本誌健康発達生活の質(QOL)脳機能好循環悪い睡眠(量・質・リズム)良好*3. Fulfs T, Poulain T, Vogel M, Nenoff K, Kiess W. Associations between sleep problems and emo-tional/behavioural difficulties in healthy children and adolescents. BMC Pediatr. 2024 Jan 5;24(1):15.・身体の回復,修復・眠気の解放・脳の機能回復・記憶の整理,定着・自律神経の調整・ホルモンバランスの調整・免疫機能の増強・脳の老廃物の除去表1 睡眠障害の国際分類(*1より).良い睡眠(量・質・リズム)*2. 山下裕史朗(監修).日常生活から学ぶ子どもの発達障害と睡眠.東京:診断と治療社,2024.図1 睡眠は身体の回復,修復や眠気の解放だけでなく,生きていくうえで大切な役割を担っている.図2 質・量・リズムともに良い睡眠であれば健康,発達,生活の質(QOL),脳機能の状態が改善され,また良好となり,さらに睡眠状況が良くなるという好循環が生まれる.反対に,睡眠状態が悪いと健康,発達,生活の質,脳機能の状態が悪化し,結果として睡眠状況が悪くなるという悪循環が生み出される.発達障害のある人の場合,悪循環になりがちである.(*2より改変引用)*1. 米国睡眠医学会(著),日本睡眠学会診断分類委員会(監訳).睡眠障害国際分類 第3版.東京:ライフ・サイエンス,2018.特集後半では,口腔と小児の睡眠障害の関係や歯科でできるアプローチなどを症例を交えて解説.詳細はザ・クインテッセンス2025年1月号で!・ 閉塞性睡眠時無呼吸症 (OSA)・中枢性睡眠時無呼吸症・ むずむず脚症候群 (レストレッグス症候群/RLS)+-+-002468!!86I429 健康発達生活の質(QOL)脳機能悪循環悪化・睡眠関連低換気・睡眠関連低酸素症・睡眠関連こむら返り・睡眠関連歯ぎしり・周期性四肢運動異常症◦不眠症◦睡眠関連呼吸障害◦中枢性過眠症◦概日リズム睡眠障害◦睡眠時随伴症◦睡眠関連運動障害
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